自己コントロールの檻―感情マネジメント社会の現実 (講談社選書メチエ)

自己コントロールの檻―感情マネジメント社会の現実 (講談社選書メチエ)

現代社会を下支えする心理主義・精神分析…派遣労働・犯罪報道にも潜むメカニズム

 知識社会学の方法を用いて、心理主義的言説がどのように要請・構築され、誰が誰のためにそれを用い、どのような効果をもたらすかを述べた著書。心理主義とは、著者によればマズローの欲求段階説を嚆矢とし、自己心理学による人格コントロールや「EQ」、感情の知性のコントロールおよび向上を訴える一派など、自らの心をコントロールすることで自己実現を叶えることができる、とする潮流のことで、それぞれの流派の要点を端的にまとめた上で「人格崇拝」「マクドナルド化」という二つのキーワードを用い、心理主義のもつ問題性を浮き彫りにする。それは、人間の人格は何よりも尊重されなければいけない、と教えられながら、その一方で、個々人の感情はどんな時でもコントロールできなければならない、とする教えも学校生活、就職活動時や就業時に絶えず内面化され、それぞれの要求レベルが高くなりつづけるに従ってその矛盾の度合いもますます高くなり、常に互いにラベリングをし続ける上に二つの矛盾する規範を過剰に内面化し続けた末、突発的にキレる人が増えてきた、ということだ。  ところで今、2008年の時点でこの本を読んでいて特に印象付けられるのは、第五章「フレキシブルな社会の編成」第六章「合理性の非合理性」で語られている事柄だ。第五章で語られているのは、派遣労働力の導入において心理主義的言説が、経営者・正社員・派遣労働者、それぞれの立場の人々にヘゲモニーとして、絶対命令的ではなく説得的に、反論しがたい意見として果たしている役割で、第六章の中には犯罪報道を補完する形で犯罪心理学者や精神科医の言説が配置され、個々の犯罪者の行動を社会的・経済的・制度的境遇を考慮外、あるいは単純化かつ所与のものとした上で、本人の「心の闇」や家族環境の問題の枠へ収めていく様子が描かれている。上記の二つの例は前半の分析と合わせてとても強い説得性を持っている。心理主義が孕むダブルバインド。本書は2000年に発行されたものだが、本書で解説されている事柄・仕組みはたった今も反復され、また増幅されている。たとえば今年出版された湯浅誠「反貧困」(岩波新書)のなかで指摘されている、貧困層を見舞う「五重の排除」を正当化する言辞が、本書で問題としている心理主義によって強化されていると読むことも出来る。現代社会の基礎知識社会学の1冊だと思う。

≪ゃ荐篋

2007年06月17日 15時24分 / Planned Happenstance 〈偶然〉=〈必然〉 plannedhappenstance.blog64.fc2.com
自己コントロールの檻―感情マネジメント社会の現実 森 真一
 セルフ・ヘルプの心理学の存在とその意味・意義を社会学的に分析している。大変興味深い。 自己コントロールの檻―感情マネジメント社会の現実森 真一 講談社 2000-02売り上げランキング : 10996Amazonで詳しく ...
2007年05月28日 20時00分 / 茨の道 bubukoseminar.blog15.fc2.com
カウンセリング・マインドと教育
えらく大仰なタイトルになったが(先週同様)、今日からゼミでは以下の本を読み始めている。いわゆる「心理学化社会」を理解するのにいい教科書だと思ったからだ。 自己コントロールの檻―感情マネジメント社会の現 ...
2006年09月05日 00時57分 / 考えるための書評集 ueshin.blog60.fc2.com
『心を商品化する社会』 小沢 牧子 中島 浩籌
心を商品化する社会―「心のケア」の危うさを問う小沢 牧子 中島 浩籌  心理主義化社会に警鐘を鳴らした『心の専門家はいらない』の続刊である。この本のおかげで私もだいぶ心理学というものに批判的 ...