一葉 (講談社文庫)

一葉 (講談社文庫)

いとおしむ心から成る凄絶一葉の小説化

【いとおしいー】この書き出しから、読者の心を惹き付け放さない。 続く一文は、初冬の夕暮れのひととき、すえたような黴の匂い、鬢付け油のしみ込んだ夜具の肌ざわり、薬湯の苦さに血痰のぬめり、どれもこれも【いとおしい】と続く冒頭は、薄命の閨秀作家へ思い入れの深さでもある。志半ば二十五歳にして、肺結核・窮乏のうちに血にまみれ悶え死ぬ一葉樋口夏子の生涯を活写したのがこの小説一葉伝である。 「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」の名作をはじめ二十数編の小説、文学的に高く評価される日記、四千首を越える短歌を残し逝きて百十余年が経つ。解説・研究は限りなくあるが、小説仕立ては数少ない。どのページを開いても、苦悩する一葉に迫っている。息づく一葉の実像に会える。 ここでは、とこしえに眠りにつく末期のシーンのみを抜き出しておきたい。 「邦……ちゃん」 「なに?」 「池……」 「池が見たいのね」 邦子が枕の位置を少し変えてやる。 その時、猛然と睡魔が襲ってきた。 邦子が夏子の躰を揺する。本を読んでとせがんだ、幼い頃のように。邦子、駄目、揺すらないで、眠いの。このまま眠らせて、夏子は、そう言いたかった。が、声が出ない、ただ、眠りたかった。母さま、邦子、ごめんなさい。もう、眠らせて……夏子は、口元にかすかに微笑を浮べて、深い眠りについた。

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2007年06月17日 20時00分 / 本からの贈り物 milesta.blog72.fc2.com
『一葉』 鳥越 碧
一葉鳥越 碧 (2005/02)講談社この商品の詳細を見る 樋口一葉が五千円札の肖像に選ばれた時、少し驚いた。あの「貧乏」の象徴のような作家と「紙幣」との不釣り合いがおかしかったからだ。 一葉といえば、貧乏の他 ...