死の棘 (新潮文庫)

死の棘 (新潮文庫)

壮絶な夫婦の受難を徹底的に描く実話小説

 先日、奄美大島の下に位置する小島、加計呂麻島を訪ねた際、作者の島尾氏の記念碑が立つ小さな海沿いの公園に寄った。とても静かな海を眺める記念碑を見ているうち、何か感じるものがあり、さっそく本作品をAmazonで注文した。    こんな小説は初めてだった。ほとんどが実話であるようだが、胸が重く締め付けられるような感覚が最後まで続く。特攻隊であった島尾氏(作品中トシオ)が加計呂麻島で知り合った妻ミホと上京し、トシオの浮気のせいでノイローゼになった妻の発作により毎日毎晩なじられ、家を出て親戚の田舎にいくも妻の執拗な夫の過去の不倫行為の詳細に対する尋問は収まる様子を見せない。  起承転結というものではない。最初から最後までが、家庭内のとっくみあいの描写である。 しかし、この作品は、まさしくその苦しみを描き出すところにその目的があるのだ。作品の解説を読んでわかったが、題名「死の棘」は、聖書から来ている。つまり、トシオは、浮気という「罪」を贖うために徹底的に苦しみを生きるという運命を神から与えられたのだ。  美しい海に囲まれる加計呂麻島で生まれ育ったミホは、まるで天使のような存在である。狂気の合間にみせる美しい笑顔にトシオの決意は固くなる。  作品では神経科に通い始める部分で中途半端な印象を残したまま終わっているが、実話では、この後、奄美に移住し、愛する妻の病は回復したという。そのとき、「死の棘」は、勝(かち)に昇華され、真実の夫婦愛が成就されたのではないだろうか。   加計呂麻島や奄美大島には、その美しい珊瑚礁の影に悲壮な戦争の爪あとを残す。潜水艦の特攻部隊で命を散らしていった人たちは、珊瑚礁をどのような気持ちで見たのだろうか。島尾氏にとっての「死」とは、「生」と同じくらいに身近であったに違いない。

≪ゃ荐篋

2008年07月17日 21時36分 / マイベストブックス booksmyread.blog62.fc2.com
死の棘 (新潮文庫)
死の棘 (新潮文庫)新潮社 発売日: 1981-01 定価: 820 円 特別価格: 820 円 ...
2008年06月22日 11時57分 / 風の色  kazenoiroshiki.blog76.fc2.com
※ヨンダツモリ※ 書評を読んで・・
なかなか本屋さんめぐりをすることができないので、時に「書評」を読んで「その本を読んだつもり」になっています。ですので日曜の朝日新聞の書評はわりと楽しみにしています。(アァ、相変わらずウスッペライ事です ...
2008年05月19日 21時21分 / モンドの読書日記 mondonosuke11.blog74.fc2.com
夫婦の愛と狂気(島尾敏雄『死の棘』)
死の棘 (新潮文庫)(1981/01)島尾 敏雄商品詳細を見る島尾 敏雄 (著)『死の棘』(新潮文庫 ; 改版版、1981/01)先月読んでた本。ものすごかった。これは素晴らしい。夫トシオの情事を知った妻ミホが、徐々に狂気に陥 ...