決壊 上巻

決壊 上巻

決壊を読んで・・・

幻想とはここではないどこかできっと存在しているはずだが、永久に実感することのできない不在のことだ。近代が産み落とした「家族制度」と「幸福」という幻想、その崩壊をこの小説は描いている。もはや形骸化した「家族」の中で、あたかもそうするのが当然であり、それを演じることが「=幸福」であるかのように、父、母、兄、弟・・・といった「役」を登場人物達は演じようとするが、演じ切れない。陳腐化したOSに互換性のないソフトをインストールするかのように当然「家族」は機能せず、徐々に崩壊していく。個々の単位である「家族」の崩壊は、コンピュータウィルスのようにシステムの隙をつく「悪魔」(制度下で抑圧されていた遍在する悪意)の顕在化を招き、「家族」の集合である「社会」という巨大なネットワーク自体のシステムダウン(決壊)へと連鎖していく。 表現も人物描写も巧みであり、原稿用紙の空白を埋めるためのペダンチックなギミックもよしとしよう。しかし飽き飽きするほどにこの類のニュースが日々溢れる中で、この小説もやはり、それを小説という形で表現し、反復させただけで、この繰り返される退屈さから逃れるだけの「ズレ」がなかった。それとも、今更「文学」にそこまで期待することはもはや酷なのだろうか・・・。ついでに言うとこのインクまみれの装丁は迷惑以外の何物でもない、特に夏場は。本を読んだあとはよく手を洗いましょう。