智恵のエッセンス―ボン教のゾクチェンの教え

智恵のエッセンス―ボン教のゾクチェンの教え

ツォンカパと上座仏教に対する論書の性格を持つ

大乗経典の創作者が、実在した釈尊や阿羅漢の教法とは異なる説法を仏陀や菩薩に語らせるのは、SF小説を読むように面白いのだが、それを真実と受け止めるのは危険である。本書でも、「永遠なるボン(ユンドゥン・ボン)」の起源を、ブッダ・シャキャムニよりもずっと古い祖師、トンパ(ブッダ)・シュンラプにまで遡ると主張するが、その歴史観は『法句経』に収録されている「七仏通誡偈」などを典拠としている可能性を考慮する必要がある。 また、本書が紹介する経典『智慧のエッセンス』は、19世紀のシャルザ・タシ・ギャルツェンが弟子に個人的な伝授を与えているスタイルで創作したものである。読んでみると、「経蔵」というより「論蔵」という印象を受ける。注を見る限り、ツォンカパと上座仏教に対する論書の性格を持つように思う。 序で、“実際に精神的な修行を実践して、本書の中で述べられている「大いなる完成」を実現しようとしても、本書を「do-it-yourself」のたぐいのマニュアルだ、と考えてはならない。”というアドバイスがあるが、論蔵に近い性格を持つ創作経典であるならば首肯できる。