東京の宿

東京の宿

リアルなもの

 「無防備都市」(ロッセリーニ)に10年先立つこの映画は、素人俳優の起用、長まわしの多様等、映画史的な意味でのネオ・レアリスモの特徴は備えていないものの、貧しさや戦争を描くことが東西の映画作家達にとって「リアル」だった当時の同時代性を備えている。こういった国際的文脈で語れるところも、ヨーロッパで小津が受ける理由の一つなのだろう。本作に関しては、「貧しさの中のユーモア」「静かな情感溢れるホームドラマ」といった小津シネマの味を期待するとエライ目にあうので要注意。(私がそうでした。)  なお、相次ぐ不倫とソ連亡命・抑留など情熱的で波乱万丈なエピソードには事欠かない苛烈な人生を送った岡田嘉子が、幸薄いヒロインを好演している。お人好しの主人公の人生を狂わせるヒロインの美しさには、彼女のリアルな天性が持つ凄みすら感じてしまう。(勿論、突貫小僧を含む他の役者も素晴らしい。)  小津シネマに関する薀蓄や先入観、ましてやポストモダンな読解などとは関係なく、「リアルなもの」の味だけが飛び込んでくる辛い映画。いま生活や心に余裕のある人はこの映画で泣けるんだろうけど、色々と問題を抱えてる僕には痛さが突き刺してくるような映画だった。