太陽の帝国 特別版

太陽の帝国 特別版

子供の目から見た戦争−−神風特攻隊が出撃する場面の素晴らしさ

 子供と戦争をテーマにした映画は多い。『禁じられた遊び』や『僕の村は戦場だった』、それに『火垂るの墓』などが挙げられるが、アメリカ映画には、子供と戦争をテーマにした映画が、余り多くないのは、アメリカが、二度の世界大戦において、戦場に成らなかった国だからだろう。その事が、アメリカ人の戦争に対する感性に影響を与えてゐる事は、しばしば、指摘される通りであるが、その意味において、この映画は、特異な作品である。−−イギリス人の少年が、第二次大戦中の上海で、辛酸をなめると言ふ、アメリカ映画には珍しい題材の作品である事が、先ず、興味深い。だが、それ以上にこの作品で驚かされる事は、この作品における日本軍の描かれ方である。主人公の少年が、日本軍に憧れて居るイギリス人の子供である事が、先ず、アメリカ映画としては異例である。そして、上海市内での、日本軍と国民党軍の市街戦の場面に始まり、日本軍の飛行場で、主人公の少年が、日本の航空兵と敬礼を交わす場面など、この映画における日本軍と日本兵の描かれ方は、驚くまでに日本人を美化して居る。その点が、第二次世界大戦を題材とするアメリカ映画として、極めて異例である。(第二次世界大戦における日本軍をここまで英雄的に描いた映画の例を、私は、アメリカ映画においてはもちろん、戦後の日本映画においてすら、挙げる事が出来無い)中でも、特に、神風特攻隊の出撃の場面で、出撃する飛行兵たちが『海ゆかば』を歌ひ、それを見守るイギリス人の少年が自分の歌を歌ふ場面は、余りに感動的であり、驚きに値する物である。−−初めてこの映画を観た時、この場面に打ちのめされた事が忘れられない。  そうした点もさる事ながら、この映画で特筆されるべき事は、この映画が、子供の目を通した戦争を描きながら、ただ、戦争の悲惨さを訴えるのではなく、戦ふ者の気貴さをも、描いて居ると言ふ事である。即ち、戦後の日本では、ただ戦争に反対する事だけが至上の命題とされ、戦ふ人間の気貴さを語る事がタブーと成って来た。ところが、この映画は、上述の神風特攻隊の出撃の場面がまさにそうであるが、戦争の悲惨さを描きながら、同時に、その戦争において戦った者たちへの畏敬を描いて居るのである。それも、アメリカ人の監督が、敵国であった日本人を描く中で、戦った人間たち(日本人)を讃えて居るのである。−−そうした意味において、私は、この映画を、日本の自称「平和主義者」たちに、是非、見て欲しいと思ふ。  この映画は、史実を忠実に再現した映画ではない。むしろ、第二次世界大戦を題材にしたファンタジーと呼ぶべき物である。−−若い人は、その点には、気を付けてこの作品を見て欲しい。−−そう言ふ意味では、この作品は、ちょっと『ラスト・サムライ』の様な作品であるとも言へる。それにしても、冷戦が終はろうとしてゐた時期に、この様な映画が作られ、公開されて居た事は、今思げば、興味深い事ではないだろうか。 (西岡昌紀・内科医)