犬との別れ

犬との別れ

人生という流れの中の石

犬がいようといまいと家族の形はときどきに変化する。リュウノスケを迎えたときに小学生だった息子たちも受験戦争に勝ち抜き、自分の進む道を切り拓くように歩き始める。そして巣立っていく。著者自身も実家の家業が倒産したあおりを受け、貯金ゼロの不安定な暮らしを強いられる。本当に書きたいものを形にすることができない苦しみもある。そんな苦しい胸のうちをただ黙って聞いてくれたリュウノスケ。 家族がどんな状況にあろうとも、視界の中にリュウノスケがいた。深夜の執筆活動、原稿を投函しに行くついでの散歩、家族の団欒。そして留守番のときも。人生の流れを川にたとえれば、リュウノスケの存在は石のようだ。いつも著者一家を見守り続け、常に変わらない存在としてそこにいる。そんなリュウノスケに忍び寄る老いの影。看取る夫妻。最後のとき。 湖を泳ぐリュウノスケの後頭部がだんだん遠ざかっていくのを著者はいつも不安な思いで眺めていた。手の届かない向こう岸へ行ってしまうのではないかと。しかししばらくするとリュウノスケの白い顔がこちらを目指して泳ぎ進んでくる。その情景が胸を熱くする。犬を擬人化せず、淡々とした文章でありながらリュウノスケの存在の重さが感じられた。