哀愛傘(あいあいがさ)
おととい買った 小さな傘
ふたりはひとつ傘の下
ポツポツと泣きながら
傘を持つ僕の右手が
君の髪をそっと撫でた
君のぬくもりが伝わる
雨はずっと止まないけれど
「僕らの上だけ晴れてるみたいだね」って
こっそり呟いた
水たまりを
わざと踏みながら歩いて
子供みたいに笑う 君の頬を濡らさぬように
そっと体を寄せてみた
それとほぼ同時だった
僕らは言葉を失った…
あの時
君は笑ったね。
僕の肩に頬をおきながら
それは僕の鼓動が
うるさすぎたからだって
すぐにわかったよ
風でゆがんだ 小さな傘
君のゆく駅まで僕らを連れていく
雨はすでに上がっている
傘を持つ僕の右手
その上から僕の右手を持つ
あたたかい君の左手
突然君が指をさした
その向こうから 姿を見せたのは
雲間から指す淡い光と
見事な虹のアーチ
そして
君だけの行く長い線路…
「ここでいいよ」って
君は笑ったね
わかってたんだ
もう会えないって事
君は傘の下から
外へ出た
さよならを聞きたくないからと
耳をふさぐ 僕の背中に
君は小さく手を振りながら…
気づけば
窓の外は雨が降っている
時計の針は
午前の10時少し前
今ならまだ間に合う
そう思ってすぐに
僕は 飛び出した
右手に小さな傘を持って…
駅までの道の途中
少し走ると そこに君がいた
傘ももたずに
うつむきながら歩く君の後ろ姿
今が最後と そっと体を寄せてみた
君の上の雨が止んだ
穴のあいた 小さな傘
ふたりは最後の傘の下
ぽつぽつ泣きながら…
「ここでいいよ」って
君は笑ったね
声ですぐにわかったよ
本当は泣いてたんだって
「また会えるよね」
僕は笑ったよ
もう会えないって
わかってたのに
君は傘の下から
外へ出た
さよならは言えないから
最後にそっと握手を交わして
あの時
僕が泣いてたことを
君は知らずに…
雨はすでに止んでいるけど
「僕の上だけ雨みたいだなあ」
こっそり呟いた
骨の折れた小さな傘
僕はひとり 傘の下
しずかに泣きながら…
2009年09月06日 12:01 by 小林 昌葉
遅くなりましたが、
たくさんの返詩を頂いたので返事を書かせていただきます。
皆さん本当にありがとうございました。
皆さんの詩から
また新しい言葉が見られて、とても勉強になりました。
「僕の上の雨」
「何度も脳内シュミレーション」
「壊れた傘が溶けてできた 沢山の黒いコーヒー」
皆さんの表現力が素晴らしいと関心しました。
ありがとうございます。
2009年11月23日 21:25 by 小林 昌葉
慌てて靴を履き替えて
わけもなく 帰路を急いでた
走りながら広げたビニール傘
その向こうに歩く君の姿
交わした言葉は数えられるくらい
君は覚えてないでしょう?
クラスメート程度の繋がりじゃ
挨拶ひとつ できやしない
足取り調節 さりげなく
うつむき加減が、ぎこちなく
ふたつ アンブレラ並んだ
縮められやしない距離に 少し笑った
こんなにも近づきたいのに
雨に濡れるのが怖いなんてさ
気が付けば雨は止んでいて
それでもなんだか晴れなくて
折りたたみ傘を持ったなら
ひなが一日 夢見てる
傘を持たない手は軽く
かといって何も掴めずにいて。
今はどんな顔してる?
君の背中に問いかける
何度も脳内シミュレーション
・・・・・・また言えない
まだ言えない。
ふたり シャングリラの中で
笑い合えたなら、そう 夢物語
ひとりだけがページをめくる
ハッピーエンド書き足してみる
見上げるまでもない空の遠さに
手を伸ばして確かめるお馬鹿さん
ちょっと泣けてきた でも気付けばほら
届かないその手包んでくれる 空があると
零さないよう隠してくれる 空が あると
昨日をなぞって通り過ぎた君のとなり
ばいばい そう聞こえたから振り向けば
なんてことない顔で言ってくれたね
“わたしの名前” “また明日”
ふたつ アンブレラ並んだ
出逢いと弾いた雨粒 よく似てる
そんなこと思ったけれど
君はどうなんだろう? 聞いてみたいな
いつか
ひとつ アンブレラの中で
▽▲▽▲▽▲
物語性のある詩を作るのに憧れてました・・・!
傘を題材に6月から考えていたんですけど、
この時期にぴったりなタイトルに出会えて
びっくりやらうれしいやら^^ありがとうございました。
あれから 忙しい日々が続いてきた
だから ちょっとずつ疎らになってきた記憶
照明灯にかざしても暗くて見えなくて
現像したら 立っているのは自分一人だった
切ない気持ちは 沢山流した涙に溶けていき
ちょっとした嬉しいことに溶けていき
彼女が押したシャッターに笑った僕がいたんだ
あのとき二人で描いた夢のメモは
何度も降ってきた雨に濡れてぼやけたけれど
拙い僕の文字が沢山そこに残ってて
だから 想うんだ 確かに好きだったんだって
壊れた傘が溶けてできた 沢山の黒いコーヒー
透明な甘いシロップを注いでいき
白いミルク加えていって もうすぐ飲み干すつもりさ
キミはここにいたよ 僕もここにいたよ
あの時間は確かにこの場所にあったんだけれど
もう 言わなければいけないんだね
心地よい涼しい風が吹き始めていた
白い雲に隠れた太陽が 僕を照らして
……もう あの時の傘は要らないんだ
……さよなら
ちょっと、自分なりの続編を作ってみました。
いつかはきちんと吹っ切れると良いんですけどね。
引きずるのは未練がましくて、つらいですから。
それでも
会いたいと願わずにはいられないんだ
僕の上の雨は
いつ止むのだろう
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