【 まどわく 】
女は窓を閉めた 日暮れの風が冷たすぎて
かすかに届いていた鳥の声はなお遠くなり
音楽にかき消され 椅子は腰掛けられ栞ははずされ
茶色く変色した頁はめくられた
窓を開けてよと少年は言った
なんだか切り離されているようだから
雲の流れも 移り変わる空の表情にも
いのちを感じることができないから
部屋の中でくらい暖かく過ごさせて
カーテンの引く音 やがて暖色が灯る
時折どこかで聞いたような声が聞こえたが
肘にキスできないよう 思い出すことはできない
窓を開けて! 少年は叫んだ
街と夜はすぐさま飲み込んだ
女は湯を沸かし注ぎ少しだけこぼした
染みにもならなかったが湯気は上った
まどろみに瞼が重くなり少年は夢の底に沈む
女は傍らに立ち毛布をかけ歌をそらんじる
そのときばかりは思い出せそうな気がした
ああ あれはなき声だ ぼくのなき声だ
目を覚ませばそこは風を受け入れる枠の中
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