日本水墨画史上、最高傑作とたたえられる「松林図屏風」が一番心に残りました。
植物や動物をきちんと写実的に描ける東伯さんが細かな実態に囚われず、
筆のタッチだけで松の存在を最小の筆致で描いているところが凄いです。
この作品は「静けさや 岩にしみ入る 蝉の声」と言う句と通ずるところがあると思います。
「静かさ」を表現するには蝉の声がなければいけません。
霧に包まれた空間の様子を表現するには、松がなければいけません。
その松を細かな枝ぶりや根の張り具合を正確に描いてしまっては、静止した画像になってしまい、松の佇まいが止まってしまうと思 います。
緩やかな薄い墨で松の幹をさらりと描いて、松葉を濃くて細い細い筆の動きだけで表現して、霧の間に見え隠れする松の様子を描い ています。
空間と松の幹と松葉のコントラストが絶妙なリズムで描かれているところがいいですね。
こうした、空間の概念は仏教の「空」の考え方にもつながっていて、そういうことを絵画的に表現しているのは、作者がお坊さんだ からではないでしょうか?
解説の中で「オーケストラ的な狩野派ではなく、ソロやデュオでの演奏のような表現を等伯さんはしている」と言われていましたが 、これも的を得た表現のように思います。
松林図屏風はさしずめ、静かに流れるソロピアノという感じでしょうか。
2010年03月07日 11:36 by watasitotaiwa
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