予告・トラック・ナイフ
――だったらいろんなトピックを。の第1弾
定番のトピックの3つのお題です。
・予告
・トラック
・ナイフ
語を何から抽出したかは明らかですが、話はご自由に発想してください。
言い換えもご自由にどうぞ。
2008年06月16日 02:03 by そこでねこが
中古レコード屋で無名の女性歌手のCDを買ってきた。
サンプリングできるいい音源でもあればという程度の理由だった。
パソコンにCDを入れる。
スピーカーからはチープな楽曲が流れ出した。
歌詞カードを開くと、片思いの歌ばかりという構成だった。
しかし収録曲順に眺めれば、全体を通して一つの物語になっていた。
つまりこのアルバムは一人の女性の一つの恋を時系列にまとめたものだった。
詩に描かれる女の姿はとても純粋だった。
意中の男に恋人がいるにもかかわらず、その淡い思いを胸に秘め、二人の仲を応援し、ときにはケンカの仲裁もしていた。
だが最後の12曲目で、突如女はノドをナイフで切って自殺してしまう。
歌詞にその経緯は書かれていない。
きっと恋の行方に思い悩んでの決意だったのだろう。
後味は悪かったが、アルバムタイトルの『あなたと一緒に』は彼女のかなわぬ願いを込めたものだったことを知った。
CDを取り出そうとしたとき、ケースには12曲収録と書いてあるのにスキン上のメニューには13曲目があることに気付いた。
ボーナストラックだろうか。
だが再生してみてもさーっという無音が続くだけだった。
録音ミスかなと思って停止しようとすると、背後から女の暗くさびしい声が聞こえてきた。
「ねえ、振り向いてよ。」
僕はぎょっとした。
誰かいる?!
しかしここは一人暮らしの安アパート、きっと隣の部屋の声が聞こえてしまったのだろう。
僕は振り向かなかった。
さーっという無音が部屋に響き続ける。
「ねえ、振り向いてよ。」
また聞こえた。
首筋に生温かい息がかかる、これは隣の部屋とか幻聴とかなんかじゃない。
確かに誰かがいる。
僕はゆっくりと振り返った。
するとそこにはノドが横にざっくりと裂けた女が僕をにらみつけながら立っていた。
手にはナイフ。
女は苦しそうに口を開いた。
「違う。振り向くのは過去。あなたがしたこと。」
思い出した。
そいつは昔、お前はブスだなあと言って笑ってやったら、次の日みんなの前から姿を消した女だった。
そのときスピーカーから女の声が聞こえてきた。
「………ぁなたといっしょに」
僕は悟った。
これは願いじゃなくて彼女からの予告だったのか。
ナイフがふわっと踊りかかってきた。
2008年06月19日 00:14 by そこでねこが
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