第一弾のリレー小説ですよ
援護者・・・恋人達の逆位置 気が変わりやすい。目移り。非協力的な態度。いい加減。波乱。気まぐれ。
敵対者・・・つるされた男の正位置 試練のとき。身動きできない。中途半端な立場。困難。
過去・・・死の正位置 失敗。突然の変化。過去を捨てる。苦境。破壊。行き止まり。手遅れとなる。
というしがらみのもと
お話をくりひろげます
『石瀬醒様』→『 四方飛妖様』→『銀様』→『私、ウィスペル』→『葉様』→『 いき♂様』
の順番ですっっ
皆さん頑張りましょうっっ
2008年02月28日 22:25 by ウィスペル
38
病室に戻った化け猫と走狼は、フェンと真木が楽しそうに話しているのに驚いた。
「ご苦労様」
化け猫は机に近付きビニール袋を置こうとして、その動きを止めた。
「先生、俺の銃をこいつにいじらせたか?」
「いや、使い方を教えてもらっただけだ」
「・・・すまねぇ、先生。机は使うんで、ベッドの上で広げてくれ」
そういうと、化け猫は袋をベッドに置き、自らはテーブルで銃を分解し、そして組み立て始めた。
「そこまで疑わなくても・・・」
「この世界じゃ油断してたら明日の日は拝めない。なぁ、嬢ちゃん?」
喋りながらも、手は休めず、化け猫はフェンに話しを振った。
「何か心外だけどっ、確かにその通りだねっ」
「解ったか先生、裏社会じゃ自分以外を信じてるようじゃ長生き出来ねぇんだよ」
言い終えると同時、化け猫はニューナンブを組み立て終え、脇のホルスターに戻した。
「ところで先生、調子はどうだ?」
「ああ」
そう言えば、と、真木は上体を起こし、次いでゆっくりとベッドから立ち上がった。
「大分良くなったみたいだ。何で横になってたのか忘れるくらいには」
だが、化け猫は真木の足が微妙にふらついているのを見逃さなかった。
「まぁ、急ぐことはねぇ。まだ休んでな」
「わかった」
そして、昨日と同じように、再び長い沈黙の夜が始まった。
フェンも、走狼らがいる前では、特に真木と喋ろうとはしなかった。
ただ、昨日と違ったのは、今日は襲撃が無かったこと、そして夕食の時間を設けたことだった。
そして、『契約』発動から1日目は何事もなく終わった。
2008年04月20日 01:41 by 銀姫翠
37
裏社会新人の真木には知る由もないが、フェンや走狼といった百鬼夜行のメンバーに親はいない。
親代わりとしてハーリティやその側近はいるが、それは育ての親であって、実の親ではない。
親の以内理由は、殺されたり、あるいは売り飛ばされたりと十人十色で、実に様々な事情を抱えている。
フェンの場合、実は親は割と普通の家庭の、ごく普通の共働きの家庭なのだが、人身売買の組織に誘拐され、表社会から切り離さ れたのだった。
その後、バイヤーの取引現場に百鬼夜行の一行が介入した際、組織に保護されたのだ。
もっとも、随分と幼かったフェンはそんなことは覚えていない。
ちなみに、百鬼夜行では、年長者が年少者の面倒を見るというシステムがあり、このシステムのために、走狼は小さい時からフェ ンの面倒を見てきたのだった。
2008年04月20日 01:41 by 銀姫翠
36
時間は少し遡る。
フェンは化け猫が出て行ってすぐにライフルを構えた。
「ダメだよフェンちゃん」
「?」
フェンは何を言いたいのか解らないと言いたげな目で真木を見た。
ちなみに、真木は既に渡されたナンブをテーブルに放置していた。
「化け猫に言われただろう?」
「ああっ。でもあれはオジサンが言われたんだねっ。オジサンは私を撃つ?」
フェンは一般人が相手なら銃口を向けられてからでも対処出来る。
「僕は撃たないよ。銃なんて使い方も解らない」
真顔でそう言われ、思わず戦意を忘れて、フェンは銃を降ろした。
「オジサンはいい人なんだねっ」
ライフルを壁に立てかけると、フェンは真木のベッドの横の椅子に座った。
「何故こんなことをしているんだ?」
普通なら学校に通っているだろう少女が、何故裏社会にいるのだろうか?
「こんなこと?」
しかし、二人の常識に違いがあるのか、またしても解らないと首をかしげた。
「ライフルを持ったりさ」
「わかんないよっ。気付いたら持ってたし、周りの人もみんな持ってた。だから、いつから、何で始めたかもわかんないっ」
「そうか・・・」
真木は改めて驚き、言葉が見つからなかった。
気が付いたら持っていた。それは物心着く前から持たされていたということか。
いったいどんな親なんだ?と、真木は心の中で憤った。
「怖くないの?」
「うん。走狼もいるしねっ」
「そうか」
「オジサンは何も知らないんだねっ」
「僕はただの一般人だったからね」
「ふーん。じゃあ新人のオジサンに生きていくためのスキルを教えてあげるっ」
「?」
フェンはテーブルを引き寄せ、ナンブの隣に自分のM92Fを置き、そして壁のライフルを持ってきた。
「何をするんだい?」
「使い方を教えてあげるっ」
フェンはM92Fを手に取り、丁寧に解説を始めた。
「これがセーフティー、ここが銃口で弾の出る所ねっ。こっちがトリガーで、これはグリップ・・・」
M92Fについて一通り話し終えると、今度はナンブとライフルについても教えてくれた。
とても詳しく、そしてどこか楽しそうに解説するフェンに、真木は子供らしい可愛らしさを見出しつつも、やりきれない悲しさと 憤りを覚えるのだった。
2008年04月20日 01:37 by 銀姫翠
35
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ・・・。
昼の街中に、規則正しい二つの足音だけが響いていた。互いに閉口し、ただ黙々と歩いている。
病院からコンビニまで徒歩で片道20分。その間、寂れた街中はほぼ完璧な無人だった。
かつて炭鉱として栄えた街だったが、主要燃料の石油への切り替えによりすっかり人がいなくなっていた。今でも高層ビルはその カタチこそ残しているものの、既に放棄されて長く、かつての機能は果たしていない。
こんな街でもコンビニや病院があるのは、この街の全盛期に建てられた病院が今も残っているからであり、周囲に住む老人達が時 折訪れるからであった。
ちなみに、ある程度の財のある人達は早々に街を捨てて出て行ったので、残っているのは貧しいごく一部の人だけだ。
コンビニで化け猫らを出迎えたのもやはり老婆だった。
「走狼、最初に言っておくが、金はお前が払え」
開口一番、化け猫はそう言った。
「何っ!?」
「300億も払ってやるんだ、それくらい出せ。どうせ経費で落ちるだろ」
「チッ、ケチな奴」
「それじゃ」
それだけ言うと、化け猫は会話を終わらせ、買い物かごをつかむと、棚のものを入れ始めた。
2008年04月20日 01:19 by 銀姫翠
34
窓から差し込む光がその明るさと角度を増しても、ほとんど誰も口をきかなかった。
真木は自分の巻き込まれた事態を一人振り返って整理していたし、化け猫は元々お喋りでない。
声がする時は大抵フェンと走狼の強大喧嘩みたいなものだった。
更に日が傾いて、影の長さが再び長くなり始めた頃・・・。
キュ〜。
不意に、奇妙な、それでいてどこか可愛らしい音が、部屋の沈黙を破った。
ゲシッ!
次の瞬間、更に何かむごく痛々しい音がして、フェンと並んで座っていた走狼が足を押さえて椅子から転げ落ちた。
「ッツツツ〜っ!テメェ!何すんだ・・・」
問われた本人は下を向いていたが、耳まで真っ赤にして肩を震わせていた。
その様子に、走狼は猛烈な痛みを堪えながらも笑いを抑えきれず、顔を引きつらせて失笑し、化け猫は我関せずと目を閉じたまま 。
これでは埒があかないと、呆れた真木が声を上げた。
「あの、僕、腹が減ったんだけど、何か買ってきてくれないか?」
すると、化け猫が目を開け、面倒そうに対応して、事態が動き出す。
「ん、ああ、良いだろう。おい、走狼」
「呼び捨てにすんな」
「走狼、お前一緒に来い」
「は?」
走狼の意思表示を無視しつつ、化け猫の放った予想外に、走狼は一瞬フリーズしかけるが、そのメリットを計算し、
「ち、偉そうに。まぁいいや。フェン、行くぞ」
相変わらず下向きのフェンに呼びかけた。だが、
「いや、フェンは居残りだ」
「何?」
「それぞれ人質だ。俺とお前は真木とフェンに装備を預ける。フェンは真木を保護しろ。真木は、もしフェンが窓からライフルを 構えたら容赦なく撃ち殺せ」
そう言うと、化け猫はジャケットをハンガーに掛けると、ニューナンブを真木に渡した。
「お、俺は置いて行かねェからな」
「何だお前、怖いのか?」
「バカにすんな」
「じゃあとっとと置け」
「勝手に決めんな」
再び起こった埒のあかなそうな状態に、真木はまたも呆れて、打開を図る。
「あの、良いから、早く行ってくれ」
内心怯えながらも、なかなか刀を放そうとしない走狼に非難の目を向ける。
目が合うと思わず負けそうになるが・・・
「チッ」
走狼は怨めしそうに真木を睨むと渋々と刀を置いた。
2008年04月20日 01:19 by 銀姫翠
33
「いつまで眠ってるのっ!」
フェンは、朝になっても目を開けない走狼のスネを蹴りつつ起こした。
「ぅっ!つつ・・・テメェ、何しやがんだこのバカ」
「いつまでも眠っている走狼が悪いんだねっ」
「ちっ、覚えてろよ」
負けた悪役みたいな台詞を吐いて、走狼は再び目を閉じる。
実は、走狼は眠ってなどいない。眠っていたのはフェンの方で、その寝起きが悪いのを知っている走狼は、失態を発見して惨劇を 招くのを避けるため、あえて眠ったふりをしていただけだった。
そんなことも知らず、フェンは朝が来るたびに走狼を起こすのだった・・・。
この一件意外には、何も起きず、午前はただただ日が高くなっていった。
2008年04月20日 01:18 by 銀姫翠
32
更に夜が更け、東の空が白くなる頃、ようやく【蛇】のサーちゃんが来た。
「ようやく来たか、更紗」
「は、はい・・・。遅くなりました」
サーちゃんとはフェンの付けた愛称であり、更紗が通り名である。走狼は当然愛称では呼ばない。というか、フェン以外にサーち ゃんと呼ぶ人間はほとんどいない。
そのフェンはと言うと、今は熟睡中だった・・・。
ちなみに、更紗は、実は男の子だ。ただ、女の子の名前をもっているせいか、その性格からその名を付けたのか、非常にオドオド していて、小さい声で話す子供だった。
年もフェンと同じくらいで、背も小さく、とても尋問官だとは思えない容姿をしている。もっとも、それは普段の姿で、尋問室の 彼は全く違った人格を発揮するのだが・・・。
「それでは・・・」
更紗は化け猫の視線にびくびくしながら、相変わらず気絶しっぱなしの黒ずくめを上手く担いで、そそくさと部屋を出て行った。
大の大人を担げる辺り、そのひょろひょろした風貌が仮面であることが窺い知れる。
そして、更紗がいなくなると、部屋は再び沈黙に包まれた。
化け猫も走狼も、互いの様子を窺うだけで、どちらも手を出さなかった。
というのも、走狼としては化け猫に隙がないので仕掛けるタイミングが無く、化け猫としては、もし走狼を殺せば百鬼夜行に刺客 を送らせる口実を与えるので、出来れば3日間、何事も無く終わった方が良いのだ。
そんなわけで、どちらも様子見に終わり、決して手を出さなかった。
2008年04月18日 00:40 by 銀姫翠
31
ヤタの話が終わると真木はさすがに無理が堪えたのか、すぐに眠りに落ちてしまった。
化け猫はこれを見て、内心、微妙な落胆を抱いていた。
いろいろと知識が豊富な化け猫ではあったが、最先端の再生医療に関しては人並みの知識しか持っていない。
そのため、STYXに関しても、一般人同様、『様々な傷害を治せる万能の細胞』として認識していた。
ところが。確かにSTYXは真木の致命傷を回復させているのだが、その速度は化け猫の希望を遙かに下回っていた。
心臓のキズの回復は素晴らしい成果だが、如何せん、回復のために眠ってばかりいては裏世界ではすぐに消されてしまう。
さて、そんな具合で、真木の観察とSTYXの考察を続けている化け猫だが、端から見るとただ眠っている様に見える。
時折目を開けて真木を見る以外は殆ど不動で、目をつむっているからだ。
これにより、敵にいつ眠っているかを判別しにくくし、時折短く眠って疲労を回復するのだ。
走狼も同様のスタイルをとって化け猫と相変わらず気絶したままの黒ずくめを見張り、また、自らを保身していた。
一方、フェンはというと・・・。
まだそのスタイルが身に付いておらず、時折こっくりこっくりと首を垂れてはハッとして起きるということを繰り返していた。
もっとも、走狼がいればフェンが眠っていようが問題はない。
ただ、フェンの意地が眠るのを良しとしないだけだ。
ちなみに、フェンは走狼らが目を閉じているので、自分の失態には気付かれていないと思っているのだが、手練の彼らは、物音と 気配だけで十分にそれを察知できているのだった・・・。
2008年04月18日 00:40 by 銀姫翠
30
さて、ヤタが「3日後に」と言ったのには意味がある。
百鬼夜行の『契約』は非常に特殊なものであるが、しかし、この『契約』にも一般の契約同様に期限がある。
依頼を達成し、隙あらば殺害しても良いというのが『契約』だが、この『依頼主の殺害』に関して、追跡して良いのは3日間と決 められている。
この3日間とは、依頼内容の完遂時、即ち、今回のケースにおいては、ヤタが部屋を出て行く前に別れを告げたその瞬間であり、 そこから72時間00分00秒のカウントダウンがスタートするのだ。
ちなみに、『情報は時々刻々と変化するもの』なので、もしその情報が変更されたり、無価値であると判明したとしても、『契約 』に変更はない。
依頼者はこのことに同意の上でなければ百鬼夜行と取引することはできない。
もっとも、百鬼夜行の依頼者の中でこれを知らぬ者などいるはずもなく、既に裏世界の理の一つとなっている。
一方で、依頼者には逃走と反撃の2択が与えられている。
ただし、反撃して組織の人間を殺した場合、それでそのまま終われるか、新たな刺客により終わらされるか、その決定権は百鬼夜 行にある。
そして、過去の大多数は逃走を選択し、そのうちの1割程度が見逃されている。ちなみに、ごく少数は反撃を選択したわけである が、そのうち、ほんのごく一部の例外を除いて、全てこの世から消滅させられている。
要するに、極々一部の例外を除けば、逃走を選んだ方が無難ということである。
2008年04月18日 00:40 by 銀姫翠
29
「では、そういうことですので私はこれで」
そう言うと、ヤタは立ち上がり、ニヤリと微笑を浮かべた。
「ちょっと待て、ヤタ。俺はSTYXの在処を教えろと言った。なのに何だ?長々と国際情勢を喋っただけだ。こっちの知ってる 情報に毛が生えた程度にしかかわらねぇ」
「毛が生えた程度には知見が広がったでしょう?」
「その程度で300億は有り得ねぇだろ」
「まぁまぁ、化け猫さん。世界情勢はわかったでしょうし、これだけの情報でもほとんど知られていないんですょ?まぁ、実はこ ちらもまだ確固たる情報をつかみきれていないんですが。何せガセが多くて。まぁ、後々、他にも情報が入ったら伝えますよ」
ヤタはあえて一度言葉を句切り、そして一層口の端を吊り上げ、
「もっとも、『後があれば』ですがね」
と、『契約』の実行を宣言した。
「ちっ、百鬼夜行も落ちぶれたもんだ」
「まぁまぁ、そう言わずに。それでは、今度こそ失礼しますか」
「あれっ?ヤタは残らないのっ?」
化け猫たちに背を向け、ドアに向かおうとしたヤタに、今度はそれまで沈黙を保っていたフェンが口を開いた。
ヤタはやれやれといった感じで再び向き直る。
「僕は命を大切にしたいんでね」
すると、沈黙を保ち、目を閉じていた走狼が、フェンの言葉に苛立ちも露わに目を開いた。
「けっ、そんなヤツいねェ方がやりやすいだろーが、このノータリン」
「走狼は五月蠅いんだねっ」
フェンが睨み付けると、珍しくも走狼は口を閉じた。というのも、走狼にとって現在の最重要事項は『契約』を遂行することに変 わったからだ。
「まぁ、良いでしょう。最期くらい許してあげますょ」
一方のヤタは、『契約』だけでなく、情報収集の仕事もあるので、いつまでも走狼や化け猫にかまっていられない。
「むっ、ヤタは冷たいんだねっ」
「はは、では、3日後に」
そう言って、ヤタはちらりと時計を見、そしてドアノブに手をかけた。
「次はもっとマシな情報をもって来いよ」
「とっとと行け」
「またねっ」
「・・・」
四人四色の言葉を背に受けて、ヤタは振り返らずに手だけ挙げて出て行った。
2008年04月18日 00:39 by 銀姫翠
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