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第一弾のリレー小説ですよ

援護者・・・恋人達の逆位置 気が変わりやすい。目移り。非協力的な態度。いい加減。波乱。気まぐれ。

敵対者・・・つるされた男の正位置 試練のとき。身動きできない。中途半端な立場。困難。

過去・・・死の正位置 失敗。突然の変化。過去を捨てる。苦境。破壊。行き止まり。手遅れとなる。

というしがらみのもと

お話をくりひろげます


『石瀬醒様』→『 四方飛妖様』→『銀様』→『私、ウィスペル』→『葉様』→『 いき♂様』

の順番ですっっ

皆さん頑張りましょうっっ

2008年02月28日 22:25  by ウィスペル

コメント一覧 48件中、41~48件表示

  • 8
     真木が目を覚ますと、そこは病院の一室のようだった。
    起き上がろうとして体に力を入れた途端、眩暈に襲われた。
    「まだ起きるのは無理だろう、先生」
    声が聞こえたので辺りを見回すと、灰色のスーツに身を包んだサラリーマンらしき男が彼の足元に座っていた。
    「あんたの不死身細胞はすごいねえ」
    口調で分かった。
    身なりは違うが、拘置所で会ったあの男だ。
    「あ…」
    喋ろうとすると、胸に痛みが走った。
    「あんた、心臓を刺したな」
    男はにやりと笑った。
    「その方が司法解剖とか面倒臭いモンを受けなくて済むと思ったからよ」
     真木の遺体を引き取りに来た業者は、この男だったのだ。
    本物の葬儀業者が、車を盗難されたので時間通りに到着できない、と拘置所に電話を掛けてきた時には、男は遺体と共に消えてい た。
    「だがな、先生、元はと言えばあんたが悪いんだぜ、自分に不死身細胞を注入してるのを隠すから。俺は最初から疑ってたんだよ 、あんたがただ一人航空機事故を生き延びた、って所からね。
    でな、早速あんたが意識を失ってる間にあんたの血を少し抜いて、自分に注射してみたんだが…、俺も不死身になってると思うか い?」
    「だめだよ…言っただろう、ベクターウイルスが無いと、スティクスは導入できない。君の体内に入った僕の万能細胞は、抗体の 攻撃を受けて死ぬだけだ」
    男は暫く天井を見上げて考え込む様子だったが、
    「まあいいや、時間さえかければ、先生の体の中の万能細胞の遺伝子を俺に感染す手立ても見つかる。だろう?」
    「まあ、そうだな…」
    男は椅子から立って、真木の枕元に来た。
    「俺は、一流だ。この世界で生き延びる技術についちゃあ、おそらく世界で一番だ」
    驕ったような口調ではなく、男は言った。
    きっとその通りなのだろう。
    「だがな、それでも歳をとって少しずつ鈍くなってきてる」
    男は、ぐい、と顔を近づけた。
    「先生、俺は死にたくないんだ。切り札が欲しいんだよ。
    俺には今まで築いてきた情報網がある。殺しの技もある。あんたを守ってやる。だからな」
    男の、常に無表情な貌に、狂気じみた笑みが薄く浮かんだ。
    「俺を不死身にしてくれ」
    真木は、圧倒されたように、何度も何度も頷いた。

    2008年03月06日 15:06 by 石瀬醒

  • 7
     看守達が駆けつけた時にはもう男の姿は無かった。
    真木の死はテロリストグループが最後の口封じに成功したものと考えられ、心臓を貫かれた遺体は詳しい検死も受けずに荼毘に付 された。
    刑務官達は、遺体を引き取りに来た葬儀業者が、以前来た者と違うことに気付きもしなかった。

    2008年03月06日 13:03 by 石瀬醒

  • 6
    「それにも、先生のスティクスが威力を発揮するんじゃねえかい?」
    真木は答えられなかった。
    再生機能だけで癌が治るとは思えなかったが、通常では無理な外科手術に耐えられる様になるかもしれない。
    「先生、俺にもその不死身細胞を注射してもらえねえかな」
    男の声が、急に間近から聞こえた。
    「…出来るわけないだろう、こんな…」
    「勿論、こっから出て、器具も揃えてからの話だ」
    「それでも無理だ。奴らは研究室を焼き払ってしまった。おそらく資料やデータも全て持ち去っているだろう。最早スティクスを 作れるのは奴らだけだろう」
    「先生は、それをちょっと何処かに隠し持ってたりしねぇのかい?」
    「無いよ。ちゃんとした設備無しで保存できるようなものでもない」
    「ふうん、そうかい」
    男が、回り込んで真木の正面に立った。
    「じゃあ、先生は俺にとって何の役にも立たねぇ訳だ」
    貧相な初老の男としか見えない彼の目に、一瞬凶暴な光が宿った。
    男の手が素早く動き、真木は右手の甲に鋭い痛みを感じた。
    「先生、有刺鉄線に触ったりしちゃあ危ないですぜ」
    男はくるりと背を向けると、そのまま歩み去った。
    真木の手には、針金で引っかいたような傷が残っていた。

     その夜、真木は男がどんな毒あるいは病原体を彼に植え付けたのかと、まんじりともせずに過ごしたが、体調を崩すこともなく 朝を迎えた。
    運動の時間になると、またあの男が現れた。
    今日は正面から彼に向かって歩いてくる。
    男が、親しげに笑みを浮かべながら右手を差し出した。
    真木は思わず握手をする。
    笑顔で握手をしながら男は、真木の右手の甲に視線を走らせた。
    そこには傷一つ無かった。
    「先生、一つ嘘をついてましたね」
    手を握ったまま男が言う。
    「何だって?」
    「不死身細胞がもう無いって話さ」
    彼は右手を放して、腕をさっと一振りした。
    何処から現れたのか、ナイフのような金属片がその手に握られていた。
    「ま、おかげでクライアントの信用を失わずに済む」
    男は金属片を真木の左胸に突き立てた。
    真木の意識はすぐに途切れた。

    2008年03月06日 13:01 by 石瀬醒

  • 5
    「勿論さ。総連も、工作機関のトップももう金王朝の夢なんぞ見ちゃいねえ。
    ただ、一部の過激分子が良からぬ事を企んでいてな、悪いことに、その過激分子のトップが日本で外食チェーンなんかを経営して いる大金持ちなんだよ」
    「それにしても…そんな連中にあれだけのことが出来るのか…」
    「あんたの考える、この計画の最も難しい部分ってのはどこだい?」
    「そうだな…爆弾の入手は金で何とかなるとしても…、それをスーツケースの検体と擦り替えることと、何より、僕らの実験内容 を知ることだ」
    「そう。なんでそれが奴らに出来たと思う?」
    「…わからない」
    「おやおや、先生らしくもない。理屈からだけでも分かると思うけどねえ。
    あんたの研究仲間の中に、奴らのメンバーが居たのさ。それも、作戦の立案に関わるくらいの中心メンバーが」
    「そんなバカな。
    僕達のチームはたった6人だぞ。皆よく知っている」
    「知らないこともあったって事さ」
    「大体、あの研究をそんな小グループが手にして一体どうしようって言うんだ」
    「それは、先生、先生から何を作っていたのかを聞かなきゃ分からねえ」

    「僕達が研究していたのは、いわゆる万能細胞だ。
    ヤモリの四肢を切断した時に現れる肉芽のような、皮膚にも神経にも分化可能な細胞。僕達は普通の体細胞を万能細胞に戻すため に働く遺伝子の部位を特定した。
    そして…」
    「かいつまんで言うと、不死身になる研究なんだな?」
    「かいつまみ過ぎだね。
    僕らは、その万能化遺伝子に少々手を加えて、逆転写ウイルスをベクター(担体)として生物の体内に導入することに成功した。
    体細胞の0.3%程がそのカスタム万能細胞になることで、動物の再生能力はヒトデ並みに高まる。
    僕らは、そのカスタム万能細胞をスティクスと呼んでいた…」
    「アキレスか。回りくどく言っても大して変わらねぇ、要は不死身って事だ」
    真木は、この男がギリシア神話を知っていることに驚いた。
    「てぇことは、奴らの狙いは不死身のゲリラ軍を組織することだな」
    「多少体が頑丈なのを揃えたって、世界を相手に戦争は出来ないぞ?」
    「今韓国の刑務所に居る、元将軍閣下を奪還するつもりだろう」
    「しかし、どっちにしても金正日は末期の肝臓癌らしいじゃないか」

    2008年03月06日 13:00 by 石瀬醒

  • 4
    40代から50代だろうか、小柄で痩せているが、強靭な意志を秘めていることを窺わせる深い皺が、眉間と頬に刻まれていた。
    男は真木の事を気に留めている風にも見えなかったが、他に周りには誰も居ない。
    どうやら彼が話しかけたらしい。
    「真木先生、そのまま聞いてくれ。あんたと少し話がしたい」
    運動時間と言っても、拘置所内での未決囚同士の会話は禁止されている。
    看守に見つかれば引き離されてしまう。
    真木は視線を前に戻し、体を動かす振りをした。
    「あんた、一体何を作ったんだい」
    男の声は不思議と耳元で囁かれたようにはっきり聞こえた。
    「世間じゃ爆弾だと思ってるようですよ。
    あなたは一体誰ですか?」
    「俺は未決囚372番だ。あんたを、殺しに来た」
    男の声は落ち着いていた。
    脅したりからかったりしてるようには聞こえなかった。
    おそらく事実を述べているのだろう。
    真木は、裁判が長引けばこういうこともあるだろうと予測はしていた。
    「誰かに雇われているんですか?」
    「まあな」
    「じゃあ、彼等に聞けばいい。彼等は僕達が何を作ったか知っているはずだ」
    「口封じのために雇った殺し屋に秘密を話してどうするんだ」
    「そりゃあ、そうだな」
    「先生、こうしよう。俺があんた達を嵌めた連中の正体を話す。先生は何を発明したのかを話す」
    「その提案を受けようが受けまいがその後君は僕を殺す」
    「そういうこと」
    真木は冬の青い空を見上げた。
    「乗った」
    「俺は、受けた注文に関して、自分が納得するまで下調べをするたちでね。
    当然雇い主は自分の正体も隠そうとするが、それを知らないで仕事を請け負ってちゃあ、長くは生きられねえ」
    「プロ中のプロって訳だ」
    「おだててもまけませんぜ、先生」
    真木は、肩をすくめた。
    「あんた達を皆殺しにしたのは、去年無くなった北の国の工作機関だ」
    男は、あっさりと言った。
    「北朝鮮の工作員?もう北朝鮮なんて国は無いのに?」
    「おいおい、先生、こっちを見ないでくれ」
    思わず男の方に振り向いてしまっていた。
    真木はまた男と無関係を装った。
    「あの国の工作員達が日本に多かったのは知っているだろう?
    むしろ、日本に本部があるような状況だった」
    「しかし、確か朝鮮総連も統一コリアを支持していたはずだが」

    2008年03月06日 12:58 by 石瀬醒

  • 3
     三日後、事故調査委員会は爆発が貨物室の中、真木聡介の持ち込んだトランク付近で起こったという途中見解を発表した。
    その日のうちに警察が彼のマンションを家宅捜査し、爆弾テロの実行計画と思われるメモ数点と、中東系のテロ組織との繋がりを 示すメールを彼のパソコンから発見した。
    彼は奇跡の人から一転、爆弾テロ犯として起訴され、退院を待たずに警察病院に移送、逮捕された。
     彼は意識を取り戻して自分の立場を知ってから、一貫して犯行を否認をしていたが、彼の持ち込んだ荷物に爆弾が含まれていた 、と言うより彼が学会に持って行く検体だと主張していたものが高性能爆弾だったという事実は、後の綿密な調査で立証され、彼の立 場は絶望的なものになった。
    彼の入院中に、慶都大学理学部学部長であり、彼のチームの顧問的存在であった御堂隆俊教授が、線路上に頭を横たえ、頭部を完 全に粉砕して自殺した。
    同じ夜、真木達の研究室が全焼する火事があり、焼け跡からは、若崎光雄と思われる遺体が発見された。
    若崎が研究室にガソリンを撒いて焼身自殺を図ったものと思われた。
    真木の研究チームの残りのメンバーは航空機事故の4日後から何れも行方不明になっていた。
    警察は、これらのことが、犯行が研究室ぐるみのものであった証拠だと考えた。

     真木は、自分を陥れたのが何者にせよ、彼らがほぼ完全な勝利を手に入れたことを認めた。
    彼はチームのメンバーが皆殺されていると考えていた。
    何処かの国の何かの組織が真木等の研究を知り、それを独占するために大鉈を振るった。
    願わくは、彼の研究を簒奪したのが誰なのかを知ってから死にたい…。

     数学はもともとギリシアの貴族市民の暇つぶしのために生まれたと言う。
    四ヶ月に及ぶ拘置所生活中、真木を無為から来るストレスから救ったものは、数学的瞑想だった。
    今彼は足元の貧弱な芝の網目模様を凝視していた。
    『芝を茎の折れ線によるフラクタルと考えよう。芝同士の交差する点の分布も又フラクタルになる。2つのフラクタル次元数の関 係は、芝の分岐の頻度に依存して変化するだろうか、それとも一定…あるいは同一?…』
     「先生」
    取り留めのない思考は、男の声でさえぎられた。
    真木が顔を巡らすと、左後ろに屈伸運動をしている男が居た。

    2008年03月06日 12:57 by 石瀬醒

  • 2
    この四月に起きた、北朝鮮の突然の南侵及び日本へのミサイル攻撃、いわゆる第二次朝鮮戦争は、たった5日で終結したが、自衛 隊員27名の死亡と、約二千人の負傷をもたらした。
    そのあおりでいわゆる再生医療周辺の研究には、高額な助成金が支出されたのだが、それをふいにしてまで、真木のチームは研究 内容の機密を守った。
    特定勢力に独占されないよう、研究成果の発表はいきなり国際会議で行う。
    それが彼らの作戦だった。
    そして、ようやく彼らは公表できる成果を手にし、明日ベルリンで行われる国際再生医療学会がその舞台に選ばれたのだ。
     今までチームの誰もが友人にさえ研究内容を語れず、うだつの上がらない研究者だと思われる屈辱に耐えてきた。
    地位や名誉を目的に研究をするのではない人間にとっても、明日は待ちに待った栄光の日なのであった。
    だから、皆はこのささやかな壮行会を開くために少し早めに研究室に集まったのだ。
    「もう検体は車に積んでますから、細かいものだけ持って下さい」
    「助教、パスポート忘れてませんか?」
    「忘れてないよ。ネクタイとハンカチも持っている。あのねぇ、子ども扱いは…」
    「胸ポケットからハンカチをちょっと出すのとか止めてくださいね、今時ダサいですから」
    「ん?そうなのか?ほんとに?」
     国際会議に出席するのは真木一人で、空港までは若崎の運転するバンに乗っていく。
    他の皆とはここでお別れだった。
    空港では、検体と恒温装置を入れた、金属たっぷりの重いスーツケースを持ち込む許可を貰うのに随分時間をとられたが、そのこ とは予想して早く来ていた。
     真木を乗せたボーイング777は順調に離陸し、
    20分後、日本海上で爆発した。

     二日後、事故現場と思しきポイントから北東に20kmの海上で、航空機の内装と見られる破片にしがみついて浮かんでいる真 木聡介が発見された。
    彼は意識不明で衰弱しきってはいたが、大きな外傷はなかった。
    他の乗客の殆どが海面に激突した衝撃で死んだと見られていたので、彼の生存はまさしく奇跡であった。
    彼は、この事故の唯一の生存者であった。

    2008年03月06日 12:56 by 石瀬醒

  • 1
     夏の朝7時は、早朝と言うには日が高すぎるが、大学には人影一つなく、真木は核戦争後の地球に一人居るような少し浮き立っ た気分で駐輪場に自転車を停めた。
    もっとも、浮き立った気分のほんとうの原因は他にあった。
    「先生」
    教室に向かう途中、駐車場の方から声をかけてくる者がいる。
    手を振りながら近付いてくるのは若崎光雄、例によって身にぴったりと合ったTシャツとジーンズと言う出で立ちで、朝早くから 元気いっぱいな様子だった。
    「お早うございます」
    若崎の後ろから鳥居礼二が現れた。
    こちらもTシャツにジーンズだが、若崎と違って胸回りよりも腹回りがはちきれそうになっている。
    「皆来てますよ」若崎が言う。
    どうやら二人は荷物を車に積み込みに降りてきたらしい。
    7時集合の筈なのに皆えらく早く来たものだ、と真木は思った。
    慶都大学理学部G棟には、エレベーターが棟の南端に一基しかない。
    それは主に機材運搬用に使われていて、真木たちはいつも階段で四階の研究室まで上がっていた。
     研究室の戸を開けると、チームの全員がそろっていた。
    全員と言っても6人しか居ない。
    真木と、一緒に上ってきた院生二人、研究助手の高那辺洋子、四回生の北川美知、そして学部長でもある御堂教授である。
    黒板には、
    「真木助教授、行ってらっしゃい」
    と大きく書かれていて、周りに
    「がんばれ」
    「The world will change with it!」
    「フランス万歳!」
    などとふざけた寄せ書きがしてある。
    「まったく」
    真木は顔をしかめた。
    「軽い壮行会だ。結局夕べは夜中までかかってしまったからな」
    御堂教授がそう言って、コーラの入った紙コップを差し出した。
    真木がそれを受け取ると、若崎が
    「我々の未来に!」
    とコップを挙げる。
    「世界の未来に」
    真木も応じる。
    照れずに言えるかどうかはともかく、真木もこのチームの研究が、世界の様々なものを変える力を持っていることは自覚していた 。
    だからこそ、チームはこの研究の内容を、ある時点から世間に秘密にしていたのだ。

    2008年03月06日 12:56 by 石瀬醒

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