ショートショート
小説の体を成してないものは『断片小説』トピックへ。それに対して短いけど「一応、小説ですよ」と思うものはコチラへどうぞ。
石瀬醒の作ってくださった『断片小説』トピックは「今思いついたシーンを書きたい」「物語の欠片を見てもらいたい」という時 にすごく良いと思います。
だからこそ『断片小説』と『ショートショート』は別物として発表しませんか。
ショートショートの投稿はぜひぜひこちらへどうぞ。
『ドライブ』
深夜、眠れなくてハンドルを握った。
車に対するこだわりはないし、それどころか昼間は殆ど車に乗らない。この車だって親父のものを勝手に借りているだけだ。
ただ、周りの景色を後ろへぶっとばしてやりたくて、夜中にこそこそとガレージから車を出した。
窓を開けると冷たい空気が流れ込んでくる。
コートを着ていても寒さは中まで滲みこんでくるが、それでも風が身体を触っていく感覚が好きだ。
景色と一緒に身体の中のものまでぶっとばしてくれそうな感じがする。
市街地を離れて海に近づくと、行き交う車の数も少なくなる。
いっそうスピードをあげて走っていると、後ろから一台の車が追い越していった。
親父のボロイ車とは言え、こちらも90km/hくらいで走っている。それをほんの一瞬で追い越していった。
片側だけで3車線。狭い道ではないが、猛スピードでうねうねと曲線を描くその車は、随分危なっかしく見える。
そう思っていたらカーブの向こう側、姿の見えなくなったところで轟音が聞こえた。
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『朝』
12月16日火曜日。
目覚めたのは8時頃。
会社に向かう彼女を見送ってからのそのそと布団をたたんだ。
ここ最近の眠りすぎで身体がだるい。
仕事を辞めてから3ヶ月が経つ。
辞めるまでの事情を聞いていた彼女は最初のうちは随分と優しく接してくれた。
慰め、励まし、「ゆっくり休んだら良いよ」と言ってくれた。
良い彼女に恵まれたと思う。
それが最近は部屋の空気の中にピリピリとしたものが感じられる割合が増えてきた。
言葉の端々に彼女の苛立ちや焦りを感じたりする。
本当に良い彼女に恵まれたと思う。
昨日は少し口げんかをした。
仕事から帰った彼女と部屋で夕食を食べていると、就職活動の進捗について尋ねられた。
僕は視ていないテレビの方へ顔を向けて、「まあ、ぼちぼち」と答えた。
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大好きなアナタへ。
ワタシの声は届いてますか?
冬の公園
アナタはワタシを好きだと言った。
「愛してる…」と
一瞬止まった時間を進める合図の様に冷たい風が頬を刺す。
それでもなお温かさを感じさせる頬は、言うまでもないアナタのせい。
「好きじゃない」
そう言われた事があった
あふれそうな涙をこらえて下を向いた。
足が重くて逃げ出したくても逃げられなくて、声を発する事もできなかった。
“駄目だ”
って、思った。
「…でも、嫌いじゃない」
数秒後、アナタはそう呟いた。
ワタシってさ、プラス思考でさ。その言葉に…希望を持ってしまったんだ。
“想いはいつか届く”なんてそんな事本当に信じてるの?
友達はそう言うけど。
ワタシは、信じてた。
だからこの瞬間、アナタの隣にワタシはいるんだ。
この気持ちをアナタに伝えられるんだ。
好きだよ。
愛してるよ。
夢じゃない、今。
ワタシの想いがアナタに繋がった。
冬のはじめ。
誰もいない公園のベンチ。
アナタの息の振動が、ワタシの耳を熱くするから。
ワタシも空気を震わせる。
「ワタシもアナタが大好きです。」
2008年12月16日 02:22 by 花琳
私は、市内に行くために大学のバス停でバスを待っていた。
そのバス停にいたのは、私とそれ以外に、パッとみ10代後半ぐらいの、まだあどけない顔つきをした白シャツ、黒ズボンの男性 二人。
ああ、これは……。
私はその姿、そして彼らの胸ポケットで異様な存在感を放っているネームタグを見て一瞬にして、彼らの目的を理解した。
彼らは、バスを待っているのではない。彼らは「子羊」を待っているのだ。
私と同じようにバスを待っているような子羊を。
実は私は以前、彼らと同じような2人組を見たことがある。
彼らより年上である、私よりも少しばかり年嵩で、やはり同じ服装をしていた2人組。
奴らはとりあえずしつこく私に纏わりつき、おかげで危うく待ち合わせにおくれそうになった。
そんな苦い経験もあったので、私は極力彼らに関わらないようにした。
しかし、彼らはやはり私を「獲物」として定めたらしく、ニコニコとしながら私に声をかけてきた。
「ベトナム語、話せますか?」
――ああ、やはり。
私は純日本人だが、父親譲りの少し濃い顔つきのせいもあり、日本人だと一発であてられることはほとんどない。
「うんにゃー」
「ドコから来たの?」
彼らの常套文句だ。
「当ててみて?」
こちらも悲しいかな、お決まりとなってしまった言葉で返す。
「マレーシア?タイ?……中国?モンゴル?」
私が予想したとおり、全部はずれだ。
とそのとき。
丁度私が待っていたバスがやってきた。
「日本人だよ。見えないかもしれないけどね。
ついでに私は仏教徒だから、キリスト教には興味ないよーん」
私の国籍を知りポカーンとしている、宣教師たちにウィンクし、私は市内に行くバスに吸い込まれるようにして乗車した。
それに第一。
私は子羊なんて可愛らしいものじゃない。
そう、私はパッと見羊に見える、が。
実のところ羊の皮を被ったオオカミなのだ。
2008年12月02日 16:05 by かける@たじー
犬
どんな犬が一番美味いか、だって?
世間じゃあ、やれ赤犬が美味いだの、チャウチャウが良いだのと言っておるがの。
ワシが人生で一番美味いと思ったのは、韓国でも中国でもない。ここ、日本で喰った雑種の犬じゃったわい。
子供の頃、ワシの家では、ペロという名の雑種の犬を飼っておった。
なつっこい犬での、年中ワシと一緒にいた。まあ、ペットというより兄弟のような関係じゃったわい。
ある日、そのペロを連れて一人で山菜取りに出かけたワシは、山で道に迷うてしまった。
日頃入り慣れた山でなんとも不思議なことじゃが、その日は森の深い方深い方へと迷い込んでしまった。
その夜を森で過ごしたワシ等じゃったが、次の日も、また次の日も捜索は来ず、終いにワシは沢で足を折って歩けなくなった。
それからまた何日か経ち、とにかく空腹だったワシは、ペロに『お腹空いたよ。お腹空いたよ』とうわ言のように話しかけていた 。
するとペロが、いきなり自分の後足に噛み付いて、肉を一塊喰いちぎったのじゃ。
ペロは、血まみれ、毛まみれのその塊をワシの前にポトリ、と置いた。
喰え、と言うんじゃ。
喰えんかった。
ワシは、血まみれで震えているペロの体を抱いて、いつまでもいつまでも泣き続けた。
朝になると、ペロは息絶えておった。
で?その後どうなったかじゃと?
ワシは助かったよ、5日後に救助されてな。
その時、ワシのそばには、ペロの毛皮と骨だけが転がっていた。
美味かったんじゃ。
生で、何の味付けも無く、最後には腐りかけておったが、美味かった。
犬種とか、肉質とか、そう言う事じゃないんじゃ。
愛情の絆の味じゃったんじゃ。
ワシはずっと、泣きながら喰っとったよ。
ん?なぜそんな話をするかだって?
そうじゃなあ、ワシは最近、もう一度だけ、あの天にも昇るような美味い肉を味わってみたくなってきたんじゃ。
犬のお前にこんな話をしても、分かるわけもないがなぁ…
2008年11月24日 20:16 by 石瀬醒
しとしと、昨日に較べて自己主張の小さい雨音がする。
眼を閉じていると、枕元に置いてある時計の針の刻む音に、意識が支配される様な気持ちになる。普段感じない恐怖心が、心身を 弱らせている所為で肥大しているのだろうか。
熱を出して早三日。それとほぼ同時に降り出した雨は激しく、点けっ放しのテレビの番組ではアナウンサーやらキャスターやらが 、引っ切り無しに「台風の到来」を告げていた。もっと幼かった頃、台風に対して、それはそれは胸を膨らませていた。要するに何か しらの行事と同一視していたのだが、さすがに今の歳でわくわくする事は無い。
”次は、お天気情報です。夏木さん、お願いします”
無感動にバトンを渡すアナウンサーと、愛想振り撒き過ぎの”お天気お姉さん”。この落差は何度見ても笑ってしまう。台風は既 に高気圧に変わり、小雨もそろそろ止む筈だと甲高い声で断言する。
自覚しているよりも眼を酷使していたらしく、目蓋が痛みに似た熱さを帯びていた。いい加減、熱も台風と一緒に下がれば良いん だ、と彼は思った。ベッドに横たわっているにも関わらず、闇の中にある自身の肉体は酷く揺らめいて、危うい。ブランコに寝転がっ て扱いでいるかの様に、軸を保てない。
急速に遠退く聴覚に届いた、甲高い女の声。
”この時期は昼夜の気温差が激しく、体調も崩しがちになります。スタミナを付けて一緒に乗り切りましょうね!”
もう少し早く言ってくれよな。
咄嗟にそう返した後、彼は眠りに就いた。
了
2008年08月05日 05:45 by 村端
彼女の言った「しょーと しょーと」とはどういう意味だったのだろう。
『商都商都』だろうか?
いやいや、彼女がそんな商売が盛んそうな町に特に興味があるとは思えない。
『ショーとショーと』だろうか?
戦隊物のショーでもあるのだろうか。
或いはサーカス?
いやいやいやいや、彼女は生粋のインドア派で、外出は滅多にしないはずだ。
『ショットショット』だろうか?
こんな感じで銃を構えて……ショット!ショット!
……自分で言っていて恥ずかしくなる。
『チョットチョット』の聞き間違いだろうか?
まさか、そんな忘れ去られた双子の芸人の真似などするはずがない。
そもそも彼女は低俗なお笑い番組が大嫌いだ。
『背負うと背負うと』かもしれない。
馬鹿な。
彼女に何かを背負うほど体力があるとは思えない。
うぅむ。
僕と同じ小説家の彼女は一体何が言いたかったのだろうか。
とりあえず考えるのをやめ、僕は 短いけど「一応、小説ですよ」 という短編の執筆に取り掛かった。
『ショート・ショート』
「ショート・ショートを書くのは、普通の短編小説を書くより余程難しいのだ」
魚住が言った。
『余程難しい』などという言い回しは、彼なりの文人気取りなのだと思う。
「何本の短編をものした君がそう言ってるのかね?」
俺はつい、意地悪に聞いてしまう。
「5本は完成させているさ。…見せてもいいものも2,3本は、ある、…かな。
…てか、何だ、君は、創造する苦しみを本数で量るのか?一本でも短編とショート・ショートを書いたことがある人間なら、その 産みの苦しみは分かるものなんだ」
「そりゃそうかも知れないけど、短編とショート・ショートと、どっちがより書くのが難しいか、なんてのは人それぞれだろう?
同じ枚数でも、膨大な資料を集めて練りに練って書く作家も居れば、鼻歌交じりに書き飛ばす人も居るんだし」
ふん、と鼻を鳴らし‐‐おそらくそれも彼なりの文人気取りなのだが‐‐精一杯の冷笑的態度で彼が返す。
「素人はそうやって言うがね、楽そうに見えて楽に書いている人なんて一人も居ないのさ、それがプロってもんなんだ」
「何年ペンで飯食ってる君がそう言って…って、もういいか、それは」
「大体君は、短編とショート・ショートの区別を厳密に知っているのかね?
いいかい、日本ショート・ショート協会によるショート・ショートの定義は…」
「いいよ、そういうの。俺は形式がどうでも面白きゃいいから。
俳句も山頭火とか好きなクチだし」
「そうじゃないだろ、限られた文字数とルールの中で面白いものを作ることが、創作者にとっての挑戦なんだろう?」
「でも、ショート・ショートのつもりで書き始めたものが、結果短編になっちゃったってそれはいいじゃん、面白ければさ」
「駄目だよそれじゃあ。ショート・ショートコンテストに応募するんだから」
突然の告白に俺は戸惑った。
要するに、それで今彼はショート・ショートづいてるわけだ。
「なんだ、そういうつもりだったのか。
でも、なんでまた、ショート・ショートコンテストなんだい?」
「そりゃ、簡単そうだからさ」
2008年07月10日 12:53 by 石瀬醒
『おじさん』
友達が「因みに」と話を切り出した時におじさんのことを思い出した。
僕のおじさんは何かの話をしている時にやたらと『因みに』を使いたがる人だった。そこで家族の会話が途切れてしまう。何度も 聞いたことのあるうんちく話だ。みんながうんざりしていた。でも、子供の頃はおじさんの『因みに』が楽しくて仕方なかった。
「因みに、このりんごの実を作るために、ミツバチが花粉を運んでくれているんだぞ。たけしがおいしいりんごをいっぱい食べる ことができるのはミツバチのお陰なんだよ」
「因みに、和牛と国産牛は、どっちも日本の牛っぽく聞こえるけど、外国で育った牛でも日本で肉にされれば国産牛なんだ。だか ら日本のことは殆ど何も知らない牛でも国産って言われているんだよ」
食卓を囲みながら、おじさんは色々な話を聞かせてくれた。僕はごはんそっちのけでおじさんに質問して、よく母さんに叱られて いた。
おじさんは「また後で話してやるよ」と言ったが、たいてい食事が終わるとそそくさと家を出て行った。
おじさんが帰った後は、母さんがいつも父さんに謝っていたのを覚えている。
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『隙間』
魔がさすのが恐ろしい。
僕は自分で自分が制御しきれないことがある。
ある日のこと、僕は手に持ったグラスを握りつぶした。
薄いガラスだったので、握力の無い僕でも簡単に握りつぶせた。
なぜか痛みはあまり感じなかったけど、気がつくと手が血まみれになっていた。
ある日のこと、僕は知らない人を階段から突き落とした。
運良く段差が残り少なかったので、相手は大した怪我をしなかった。
大した怪我をしなかったので、なおさら憤慨してすぐにこっちを睨みつけた。
でも、僕の顔を見るとすぐに目をそらして何処かへ走っていった。
魔がさしたとしか言いようがない。
ガラスを握りつぶした僕には、ガラスで怪我をする恐怖が全くなかった。
知らない人を突き落とした僕には、相手に対する憎しみが全くなかった。
どちらの時も僕を支配していたのは軽い好奇心。
『押してみたらどうなるだろう』『強く握ってみたらどうなるだろう』
そう思った瞬間に、目の前には結果があった。
他にもいくつかの失敗を繰り返し、僕はその気配を感じるとすぐに気配から逃げるようになった。
魔がさしそうな気配がしたら線路から遠ざかる。
魔がさしそうな気配がしたら人ごみから遠ざかる。
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