リレー小説
トピック、『リレーやらない?』での決定に沿ったリレー小説です。
参加希望の方は上記のトピックに表明して他の方々の指示に従ってください。
2008年08月31日 03:55 by イフト ソラ
5番手アルフ
〜3部〜
血糊でべっとりと額につく前髪を跳ね上げながら海勢は亜季に斬りかかり、亜季の大刀がそれをすぐ脇へと受け流す。
しかし、海勢が剣を引いた時、亜季の着物の袖がハラリと落ちた。
「ナッ!?」
一瞬驚きの顔を見せた亜季に向かって不敵な笑みの海勢が更に斬りかかる。
今度は突き、威力は一撃必殺だが単発でかわされやすく隙の大きい技。
当然亜季はそれを易々と交わし、そのまま海勢の胴へと切り返す。
はずだったのだが、亜季の目の前には既に剣を引いて再び突きを繰り出す海勢の姿。
「遅い!遅い!」
既に刀での防御は間に合わないと悟った亜季が身体をひねり、突きがわき腹をかすめる。
「そらもう一丁だ!」
「…ッ!?」
まさかの3連撃に亜季は堪らず後退し、海勢の剣が空を切った。
「おいおい、今のは確か二つとも…」
「えぇ、あれは両方ともウチの技だわ。あいつ一体どこから!」
ハルキの声に亜季が答える。その声は明らかに驚きと焦りを含んでいた。
「驚きましたか?秘技燕返し、三段突き。どちらもそちらの家から頂いた技です。ルートはお教えできませんけどね」
海勢が剣を回しながら余裕のある声で喋り、それが亜季の怒りに油を注ぐ。
「いいわ、土御門の当主に後でたっぷり聞くから。あんたはここで死になさい!」
今度はこちらの番とばかりに亜季が海勢に飛び掛り、その大刀を振りぬく。
それを正面から受けようとした海勢が亜季の力に押し負けて後ろへと吹き飛んだ。
そこへ畳み掛けるように亜季が大刀を振り降ろす。
「…甘い」
刹那、海勢の細剣が亜季の腕を縦に切り裂き、大刀は海勢の足元へと突き刺さった。
思わず腕を押さえる亜季を海勢が見下す。
「甘い。そんな大刀でこの細剣へ大振りで斬りかかるとは。今ので私はあなたを殺せましたよ?」
「……ッサイ!!」
海勢の言葉にすっかり我を忘れた亜季が刀を横になぎ払うが、先にそれをよんでいた海勢に簡単に交わされた。
5番手アルフ
〜2部〜
更にその後ろから現れる八人の侵入者。
「その状況で大声を出すとは、よほどの度胸の持ち主か、将又ただの馬鹿か…」
「…あんた?…田村師範を殺したのは…」
沖田の嘲笑を遮るように亜季が尋ねた。
「…そうです。私が殺めました。だとすればどうしますか?」
「決まってるじゃない…切り刻んでやるわ!!」
亜季の目の色が完璧に変わり、腰の大刀を一気に抜き放つ。
そしてハルキが背中の棍棒に手を伸ばそうとすると、
「あんたは下がってて。ここは私がヤる」
亜季が前を向いたまま刀で制した。
だけど…、とハルキが反論するが、
「黙りなさい。あれは私の獲物よ」
亜季の刀がハルキの首に触れ、流石のハルキもこれには引き下がることにした。
「随分威勢のいいお嬢さんですね。しかしこの人数を一人で相手するのは無理があるのでは?」
「うるさい。さっさと来い」
「そうですか…ではいかせてもらいます!!」
そう言うと、海勢は手を前に突き出し、それを合図に八人の侵入者が一斉に亜季へ襲い掛かる。
八人は抜刀した刀で一気に目標へ斬りかかり、
「…邪魔」
亜季の大刀により一瞬にして血の海へと沈められた。
返り血で身を染めながら一人佇む亜季の姿はハルキの目には鬼神のごとく映り、久々に悪寒というのが背筋を走った。
「いいですね。…素晴らしいです!」
仲間が切り捨てられるのを目の当たりにしたにもかかわらず海勢は不敵な笑みでそう叫び,黒鞘の剣をゆっくりと抜く。
「神凪祈亜季さん、あなたを生け捕りにせよ、との命令だったのですが…私、うっかり殺しちゃうかもしれません!」
5番手アルフ
〜1部〜
突如怜治の胸ポケットの携帯が場違いな着信メロディーを鳴らし、怜冶は前方から切りかかる使用人の眉間にナイフをお見舞いし ながらそれを取り 出す。
「……どうしたの?土御門から?」
横に並ぶ頭一つ分以上背の低い白羽がその細い相貌で怜治を見上げる。
「…分かった。すぐそちらに向かう。………うんにゃ。先行してた奴からだ。何かどえらく強い二人組と交戦中だから応援に来て くれだとさ」
「……二人組?」
「あぁ、なんでも重装備な少年とお前と同じで着物姿の少女だそうだ」
「……そう」
「先行部隊のリーダーは沖田だからすぐにやられちまうって事はないと思うけど、一応俺達も加勢に行く。それでいいか?」
白羽がコクリと同意の意を示し、二人は慌てることもなくゆっくりと歩き出した。
「ちょっと…これどういうことよ…」
長く続いた廊下を曲がった先、言葉を失って立ち尽くす亜季とハルキの前には見るも無残な光景が広がっていた。
一面の壁と天井に撒き散らされた血の海と床に横たわる十数人の使用人の骸。どれも致命傷は刀傷。
そして二人のすぐ近くにうつ伏せで横たわる亡骸、それは師範代の田村であった。こちらは刀傷の他にも銃痕も刻まれていた。
「田村……師範代?ウソ!?何で師範がヤられるの!!」
取り乱す亜季の後ろでハルキの顔が憎憎しげに歪む。
―チッ…確かに殺したと思ったんだがな。ヤり損ねてたか。
しかし次の瞬間にはいつもの冷静なハルキへと戻る。
「どうやら刀でヤられたみたいだね。それも複数の敵だ」
「分かってるわよそんなこと!それより何でそんなに落ち着いているのよ!!師範がヤられたのよ!?」
「とりあえず落ち着いて…そんなに大声出したら…」
「そうですよ。そんな大声では敵に位置を知られてしまいます」
突如響く不気味に澄んだ声。
その声に反応したハルキが瞬時に拳銃を抜いて二つ先のドアへと打ち込む。
蜂の巣となったドアはガラガラと崩れ落ち、それに混じる乾いた金属音。
「いい腕ですね。一発食らってしまいましたよ」
崩れたドアの奥から現れたのは、
「始めまして、沖田海勢(おきた かいせい)と申します」
真っ赤な道着を身にまとった剣士だった。
2
―――――ふぃいいいいい………
「あれ、」
「ん、春樹どうしたの?」
俺の声に気づいた幼馴染が反応してくる。面倒くさいところで神経が鋭い。
聴こえたのは笛の音。それで亜季に言おうかと思ったが、止めた。
だって俺。「ハルキ」をスイッチなしに呼び起こすだなんてさ?
瞬間、
亜季と俺の隣にあるドアからいきなりガード・エージェント通称・警備ロボが出てくる。
「しつこい奴は嫌われるぜ?」
予告もなしに現れた外敵に一発おみまいしてやる。がいん!お、いい音。
そう思ったとき亜季がこっちを向いていた。
ばれた、か?
「危なかったね」
苦笑する俺をじいと見つめてきた。
…………
すると何かを考えるようにして亜季は前へと進みだす。
安堵、この感情を出したのは久しぶりだった。
亜季は変なところで勘が鋭い。
俺のこともわかりきっているのではないかと疑ってしまう。
ぱしいん!高い音が響く。
何かと思えば、亜季が両頬を真っ赤にさせていた。
「どうしたの?」
亜季は狼狽しつつ、
「え?あ、ううん。ちょっと師範たちのこと考えていただけ。あの人たちに限ってまさか……ってことはないけど」
残念。心中で呟く。
「それに、警備ロボにしても変に出てきたし、無差別な戦い方だったけど使用人は大丈夫だったかなって」
「俺はそれよりも侵入者のほうを倒すことを優先したほうがいいと思うけど」
俺を呼び起こす奴を是非とも見てみたいものだ。
「うん、そだね。それに、あれでも皆腕利きだし大丈夫だよね」
ああ、と曖昧に流したところで、
「アウト」
…………………
あれ、なんで俺こんなところに?
そうだ…、警備ロボが横たわっていて。それから。
「春樹、壁にぶつかるよ」
ごん、と大きな音をたて真正面から壁に激突する。
「いて……」
だから言ったのに、とため息をつく幼馴染。
「さてと、さくさく侵入者でも倒そうか」
「え?」
「……さっきあんたが言ったじゃないの」
「………ああ、そっか」
多分また眠すぎて意識がとんでいたのだろう。自分のいった言葉さえもあやふやだ。
よくあることなので、あまり気にしない。
1人ずんずんと先を進む亜季を見つつ今度は壁にぶつからないように、走る。
侵入者と捜索者、
道は加速し交差する。
4番手 西
1
―――――ふぃいいいいい………
「あれ、」
「ん、春樹どうしたの?」
いきなり何処かに呼びかけるように言う幼馴染を見て、私は反応する。
春樹は何かを言おうとして、――くちごもり「なんでもない」とぼそりと言った。
?、なんなんだろうか。
私は気になったがあえて追求しないことにした。
それにしても、疲れた。
一体目のガード・エージョント、……じゃなくてガード・エージェント(注・警備ロボット)を倒したかと思えば同じものが次か ら次へとやってき た。警備してろっての。
さっきので9体目、しかもあいつら妙にしぶといからたまったもんじゃない。
疲れたね、と振り向いて同意をとろうとしたらいきなりがいん!という音がした。
「へ…?」
後ろには春樹。その近くには警備ロボット。
そして奴はふしゅーと煙を立てながらのびていた。
「危なかったね」
そういって苦笑する春樹に少し違和感を感じる私。
春樹とは小学校4年生くらいからの付き合いだろうか。
私のほうが少し早くに生まれたせいもあってか友人というより、姉と弟のような関係だと私は思っている。
その頃の春樹は貧弱モード全開ですぐにいじめられそうな奴だった。それを見かねて私が自宅にさそい武道の道を教えてやった。
今では私よりも背がでかくて武道もそこそこ上手だからむう…とうなりたくなってくる。
でも私の感じる違和感はそれではない。
いつだっただろう………、多分中学3年生の秋ごろだろうか。
春樹の様子が変わった気がするのだ。
それまでは低血圧よろしくで人がいるときはいつも眠そうな眼をしていた春樹。
でも、その後からは春樹の眼が違っているように思えるのだ。
なんていえばいいのかな。
いえば、それは、
……ええい馬鹿馬鹿しい。今でもふらふらーと歩きつつ寝ぼけ眼の春樹がありえない。よりにもよってだ。
私はいらぬ考えを止めぱしいん!と強く自分の頬をたたいた。
2
見れば、神凪祈の使用人らしい男達が集まってきていた。
「……煙草、嫌い」
白羽はあからさまに不機嫌な顔を怜治に向ける。
「そう言うなって。普段我慢してるんだ、たまにはいいじゃねえか。それに、無駄な殺しは嫌いだろ?白羽の方が適任だ」
「逃がさんぞ……何!?」
使用人たちが驚くのも無理はない。目の前の侵入者の一人は、ただの笛を持った着物姿の少女だ。
白羽は静かに、笛を吹き始めた。最初の音が聞こえると同時に、怜治は耳栓をする。
美しい音色だった。静かに流れる水を思わせる、流麗で穏やかな響き。しかし、その音色こそは、終末の音色。
「ううっ……ばかな!」
「か、身体が……動かん!!」
「う、うわあああああああっ!!」
一曲終えると、男達は瞬き一つせず硬直していた。それを見やった後、怜治が耳栓を外して拍手を送る。
「お見事。さすが現代の魔術師」
「魔術と言っても、私のは人間の無意識に作用するものだけ。今のだって言ってしまえば笛の音色を利用した、ただの催眠術」
「だが、一流の仕事には違いないさ」
「……ありがとう」
わずかに、白羽の頬が朱に染まる。自分が一流と評されることが照れくさいのだ。
「そういえば……報酬に、お金のほかに要求してたのは何?」
「拳銃さ」
「ああ、オートジャム……欲しいって言ってたっけ」
「その悪評で呼ぶな、オートマグだ。しかも初期の全くと言っていいほど出回らなかった貴重品だ」
怜治は仕事人としての他に、銃火器コレクターとしての顔を持っている。仕事の成功報酬として、こうした銃器を求めることも珍 しくはなかった。
「……あれだけ集めて、何で使わないの?」
「俺にとって銃ってのは信頼に足る武器じゃない。機能美、造形美を楽しむもんだ」
まだ見ぬ敵を追いながら子供のように楽しげに語る怜治を見て、少し呆れる白羽であった。
3番手 弥生
1
「おいおい……どうなってんだこりゃ?」
スーツに帽子、サングラスの男と着物姿の少女。異質な組み合わせの二人組が,目の前に横たわる死体を見て、困惑していた。男 は月島怜治(つき しまれいじ)、少女は皇白羽(すめらぎしらは)といった。
二人は土御門に大金を積んで頼み込まれ、呼び出された仕事屋だ。最初気乗りはしなかったのだが、報酬に色をつけることで合意 した。
目の前には最大の障害と言われていた師範の死体。これでは何故呼び出されたのかとも訝ってしまう。とりあえず、死体を調べる 。
「……どういうわけかは知らないが、やったのは身内だな」
「わかるの?」
白羽が尋ねる。
「単純な話だ。これだけの達人がこんなあっさり後ろ取られるってのは、普通じゃ考えにくい。となれば、よほど油断を誘える相 手……子供か身内 だ。だがこの島にそんな子供がいるとは考えにくいし、そもそもこいつを撃った銃は反動から考えれば子供が扱え る代物じゃない」
「……追う?」
「ああ。出来るか、白羽?」
「……五分ちょうだい」
そう言うと、首にかけていたペンダントを外し、鎖を持って振り子にした。いわゆるダウジングだ。
人間の無意識の更に奥、潜在意識の海にアクセスし、求めるものと振り子を感覚的に結びつける。
「便利だねぇ、魔術って奴は」
「霊的な存在を呼ぶわけじゃなく、人間誰もが繋がっている深層意識を介した魔術だから、少し訓練すれば誰でも出来るわ。やっ てみる?」
「遠慮しとく。オカルトは嫌いじゃないがね」
「……まだもう少しかかるから、そっちの相手をお願い」
見れば、ガード・エージェントがこちらに向かってくるところだった。
「あいよ」
怜治が腕を振るい、ひょう、とわずかに空気を裂く音がしてジャスト十秒。ロボットが動きを止めた。装甲の隙間を縫って、銀の スローイングナイ フが刺さっている。正確無比、寸分の狂いもなく駆動系を貫いたのだ。
「大人しくしてろ、デク人形」
つまらなそうに言い放ち、ポケットから葉巻を取り出す。
「方角は南南西。この島の広さと死体の血の状態を考えれば、そう遠くない」
「ご苦労さん。ついでにあっちのお客さんを黙らせてくれ、俺は一服したいんでね」
2
「あのシステムって?」
急に弱々しくなった亜季に身を寄せ、ハルキは促した。
「ウチが開発したゲリラ戦最終兵器。それにあたしが…」
一瞬、亜季が言い淀む。
「あたしのDNAがキーコードとして使われているの」
「ふうん…それでか…」
ハルキは、一瞬亜季が何か別のことを言おうとしていたような気がした。
「でも、そのシステムはまだ開発中で、わが社でも中枢部しか知らない超極秘プロジェクトなのよ。それがどこかに洩れたなんて …」
その時、廊下に並ぶドアの一つをぶち破って、黒い塊が飛び出してきた。
それは向かいの壁に激突し、しっくいの欠片をあたりに飛び散らせた。
「ギリ…ギリ…」
歯車の軋むような音を立てる。
ガード・エージェントだ。
神凪祈工業の開発した危険地域哨戒ロボット。この島でも屋敷の警備に配備されている。
が、こいつはミサイルでも食らって暴走しているようだ。
半ば壊れた機体で、2人に向かって来た。
正面から斬り落とす電磁ロッドの一振りを、亜季は反射的に腰の太刀の抜き打ちで払う。
「ダメだ!」
亜季は絶縁性のグローブを着けていたが、茎(なかご)まで伝導した電磁ショックは、彼女の神経を麻痺させた。
狂った機械は猶もゴム弾の連射を見舞おうと、腰の射出口を開く。
刹那、ハルキは2間もの間合いを一足に詰めると、ロボットのボディに、いわゆる剣術の“体当たり”を食らわせた。
深く腰を落とし、「吽(うん)っ」という気合と共に太刀の柄で強く当ると、重さ400kgの鉄の塊がふわり、と浮いて1m先 に音を立てて転倒した。
間髪をいれず、小銃弾を一弾倉分、装甲の割れ目の中に叩き込む。
狂った番人は沈黙した。
「あ…あんた…誰?」
まだ痺れた両手に剣を構えつつ、亜季が訊く。
“ハルキ”は、小さく呟いた。
「アウト」
“春樹”は、目の前の残骸に驚いた様子で後ずさりし、自分の手の中の小銃に気付いてもう一度びくっと背中を震わせた。
「え?な、何?」
亜季を見つめる春樹の表情は、頼りなげで…いつもの春樹だった。
「春樹、あんた寝惚けてるときの方が強いみたいね」
2008年09月05日 07:04 by 石瀬醒
2番手 石瀬醒
1
春樹は今、道場に入るときに外したインカムマイクを再び装備している。
そのヘッドホンに、囁く様な声が入った。
「スイッチ」
瞬間、もう一人の春樹が目覚めた。
「このボーズ、3人も殺しちまいやがった」
うんざりした口調で“ハルキ”が呟く。
「とにかく、おじさんや田村と合流するわよ!」
振り向きもせずに亜季が言う。
“おじさん”とは、神凪祈流兵法師範、神凪祈慶一郎、“田村”とは、同じく師範代、田村正樹のことだ。
「そうだね」
応えながらハルキは思う。
「いずれ合流させてあげるけど…今はまだだ。」
2人は、道場に来る前にハルキが始末していた。
2人とも後ろから自動小銃で攻撃されるとは、全く思っていなかったようだ。
この娘もそうだが、神凪祈財団の面々は、あまりに力を過信している。
亜季は依然、春樹の様子を気にすることも無く、目の前の敵を嬉々として倒し続けている。
いくら強くても、実戦を知らぬということはこういうことか、半ばあきれながらハルキは思った。
「あの…亜季?」
「なに?」
「敵がなぜこんな散漫な侵入作戦を取ったかとか考えないの?」
「ふん、どうせ土御門の連中よ。商売でウチに太刀打ちできないからって、襲撃してきたんだわ」
「こんな、演習用の小島を?」
亜季は、春樹から思わぬ反論を受けて、立ち止まった。
小さく眉間にしわを寄せて言う。
「じゃあ、何だって言うのよ」
「俺は、亜季が狙いなんじゃないかって思うんだ」
「あたしが?」
「そう、しかも殺すのが目的じゃない。無傷で手に入れるための作戦だって」
「春樹、あんた…」
ハルキは、調子に乗って言い過ぎたか、と一瞬ひやりとした。
「意外と、こういう時に落ち着いてるのねぇ…見直したわ」
亜季は、やっと事態をじっくり考えてみる気になったようだった。
「確かに、大規模破壊の出来ない侵入戦にしても、閃光弾もガスも使わずに肉弾戦を挑むのは変だものね…」
ハルキは、幼馴染として亜季を気遣う表情で言った。
「でも、亜季が狙いだとして、これだけの人数を動員してまで君一人を拉致しようとする目的は何なんだろう?」
亜季は、唇を噛んでじっと何かを考えているようだった。
「まさか…あのシステムが…」
2008年09月05日 07:03 by 石瀬醒
2
無意識にここまで来るまでの経緯を思い出してしまう。如月家は2代ほど前に成り上がった家系、対する神凪祈家は10数代続く 名門だ。本来なら神凪祈家にとって如月家のような家柄は嫌われているのだが親に無理矢理通わされた金持ちのボンボンが通うような 私立の小学校で亜季と仲が良くなり神凪祈家に通い武道を学んでいくうちに春樹が個人的に気に入られたのだ。そして今回、夏休みを 利用してバカンスに行こうと言う話になり半分無理矢理に太平洋のどこかにある神凪祈家所有のこの島に連れてこられたのだ。しかも バカンスと言っても毎朝の稽古は無くならない。それにこの出来事。さすがに今回は後悔してきた。
部屋に戻るまでに3人の侵入者とで遭遇し、全員の心臓と頭に1発ずつ銃弾をお見舞いする。
黒のボディスーツに迷彩柄のカーゴパンツ、腰のベルトに太刀と大型の自動小銃、左の太もものベルトには小型の自動小銃、背中 には飾り気の無い1,5メートルほどの棍棒を背負った姿で道場に戻る。ここまで3分27秒。その1分30秒後に亜季がネイビーの ボディスーツの上から着物を着て腰に太刀を挿した姿で現れた。
「着物って逆に動きにくくないか?」
「しょうがないでしょ!家が煩(うるさ)いんだから。さぁて、反撃と行きますか」
「気が乗らないな」
「冷めてるわねぇ。まぁ関係無いわ。さぁ、反撃開始!」
剣道、合気道、柔道を始め様々な武術を極めそれを混ぜ合わせた完全に自己流な戦闘をする亜季に狙われた侵入者に少し同情する 春樹がいた。対して春樹が極めたのは剣術、棒術、銃術、合気道のみ。使用人達も何かしらの武術を嗜(たしな)んでいたが春樹ほど でもなかった。師範ですら春樹以下だった。
溜息をつきつつ前を進んでいく亜季の後ろを春樹が歩いていった。
2008年09月05日 02:22 by イフト ソラ
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