断片小説
短編小説よりさらに短い、というか、小説の体を成してない。
でも、今思いついたシーンを書きたい、そんなことってあるじゃないですか。
そんなあなたの、日の目を見ない物語の欠片を、チラ、と発表してみませんか?
それが面白そうだったら、ブログの小説の方も読んでみようか、と思われるかも知れませんよ!
2007年09月21日 16:46 by 石瀬醒
雨の帰り道。
突然の夕立で、彼女は途方に暮れていた。
バス停で雨宿りをする。
「ほら。」
寂しそうに俯いていた彼女を見つけた彼が、傘を差し出す。
「一緒に帰ろうよ。」
「・・・うん。」
そうして二人では狭い傘の下に寄り添うように二人歩く。
互いに言葉を交じることなく、雨の音の沈黙が二人を包んだ。
彼の肩口は雨に濡れていた。
愛しい思いで、彼女は彼の手を握る。
互いの視線はどこか遠くの虚空を見たまま、彼はその手を握り返す。
囁く言葉は頭の片隅で、フェイドアウトするように雨の音に溶けてゆく。
雨脚で小走りで路側帯を走る彼の友達が、彼を見つけ冷やかす。
「お、熱いねー。」
「ばーか。早く走って帰れよ。風邪ひくぞ。」
彼の友達は苦笑してそのまま駆けて言った。
握っていた手は友達に気づかれる前にほどけていた。
「ごめんな。」
彼があやまる。
互いの視線が重なる。
「・・・私達、いろんな人を裏切っているね。」
彼女は寂しそうに笑う。
「・・・帰ろう。」
二人は家路に着く。
玄関からは優しい声が聞こえた。
「雨で濡れてない?お姉ちゃんもほら、髪乾かして。」
おだやかな母の声。
2008年05月23日 19:44 by はっか。
待ち合わせた場所には、誰もいなかった。
もう何年も前のことだ。私はこの場所で、大事な人と会う約束をした。
今日、この場所で、この時間に。
それなのに、
それなのに!
誰も、私を待っていなかった。
待っていたのは私だけだったのだろうか?
それとも、勘違い?
勝手に見ていただけの夢だったのか?
否、違う。私の足取りは迷うことなくここに来たし、スケジュールにはきちんと今日の欄に予定が入っている。
それならば、何故?
何故?
誰もいないの?
しゃがみ込んで動かない私の背に、声がかかった。
「姉ちゃん、どうした」
気前の良さそうな青年が、立っていた。
弾かれるように立ち上がって、話した。
この場所……小さなマンションの一室を借りて、数年前まで私は詩人を目指していた。が、小さい頃からの夢だったはずなのに、 私には才能がなかったのだろうか、一向に芽すらでなかった。
絶望して泣きじゃくる私の側にいてくれたのが、幼なじみの少年だった。私と共にマンションの一室を借りて、ギターを弾いてい た。
いつか、いつか、もし叶うなら、私の詩を彼に歌って欲しかった。
けれど、その願いは、叶わなかった。
一向に芽が出ないのは、彼も私も同じで、親に連れ戻されたからだ。
その時、約束した。
「一人前になって、戻ってくるから」
「その時は」
「結婚して欲しい」
全て話し終えると、青年は驚いたように私を見つめた。
「俺も……いたんだ。そういう女が」
要するに、同じ。
このマンションの一室を借りて、彼はギターを、彼女は詩を。
ただ、それだけの違い。
嗚呼、何という偶然。
何という、可能性。
ならばと、私は賭けてみることにした。
「ねえ、その人の名前は?」
「え?」
「同時に言ってみない?」
そして、その結果は……。
2008年05月22日 22:56 by くれさききとか
「私は貴方に言いたい」
重たげな黒髪を肩から零し、彼女は首を静かに傾け言葉を続ける。
「貴方は確かに彼とともにいた。生きていた。
彼の生の半分は貴方とともにあって、彼の心も・・・まだおそらく貴方に半分あるわ」
暖かな日差しが縁側から差し込んでいる。なのに、部屋の中はどうしてか薄暗い。
その薄闇に遠慮するかのように、いつの間にか茶碗から立ち上っていた湯気もおさまり、わたしと彼女の間に横たわる重すぎる 沈黙を更に浮き立たせる。
「だから、ねえもう充分でしょう?」
答えを求める声に、わたしは何も答えられない。
「これ以上彼から何も奪わないで、縛らないで。
もう、幸せになるのを許してあげて」
徐々に涙声になっていく彼女を、わたしはただ見つめることしかできない。
泣き女のような密やかな泣き声と、薄闇と、裸足で感じる畳のざらっとした感触を感じながら。
光差し込まぬ仏壇に飾られている写真の中で、大きな笑顔をし故人が変わらずわたし達を見つめている。
笑って。哂って。もがき、じたばたしているわたし達をひたすら哂いながら見つめている。
駒鳥を殺したのは、誰?
それは、わたし。雀が答えた。
を殺したのは、わたし?
それは、違う。遠く誰かが囁いた。
『TD-4』
エンバーミングという技術があるということを知った。
遺体を消毒、保存処理を施し、また、必要に応じて修復し、長期保存を可能にしようとする技術。
土葬が基本の欧米では遺体から感染症が蔓延することを防止する目的も含まれるそうだ。
だから欧米では古くからある職業であるにもかかわらず、火葬をする日本での認知度が低いらしい。
とはいえ、日本の一部上場の葬儀社でもエンバーミングをサービスとして取り扱うようになってきており、徐々にその必要性は認 められてきている。
それは、ただ遺体を保存するというだけでなく、故人を生前元気だったころの自然な状態に戻すことができるというところに理由 がある。
人は遺体に対面することで「死」を確認し、悲しみが癒されるという。
これは「悲嘆の科学」といわれ、科学的にも実証されている。
エンバーミングは遺族の心のケアをフォローする技術でもあるのだという。
僕には父親がいない。
数年前からだ。
父親は数年前に僕の前からいなくなった。
ポリタンクに入った油を持って車に乗り、お酒を飲み、車に火を点けた。
家には帰ってきたのだけど、帰ってきた親父には全く会っていない。
弟だけは、警察の立会いの下、大学病院で父親と対面した。
TD-4。
後に弟に確認した。父親だと認識できたのかと。
「免許も見たし、遺留品がおとんのもんやった。間違いないやろ」
遺留品なら向こうでなくても確認できる。ちゃんと対面したのではなかったのかと尋ねた。
「見たけど見ても分かるわけないやん」
そう答えた。
人は遺体に対面することで「死」を確認するということ。
それは事実ではないだろうかと僕は思った。
最近、洗面所で鏡の前に立つ時に胃がずしりと重くなる。
原因はコレ。
櫛。
目に入らないように、さりげなく端っこに寄せたそれは、じっと私の方を見ている。
気がする。
彼が越してくると言い出したのは1ヶ月前のこと。
いつものことだが不意に思いがけないことを口にするから困る。
私にも都合というものがあるのだ。
でも、私の口は重い。
私が何も言えないでいるうちに、彼は2週間強で完全に自分の部屋を引き払い、こっちに荷物を運びこんでしまった。
本当にマイペースな人だ。
呆れを通り越して尊敬すらしてしまう。
彼が部屋を引き払ってから数日、私達はダンボールとともに過ごした。
ダンボールの中の荷物は、徐々に私のスペースを押しのけて部屋の中に侵入してきた。
そんな彼の身勝手な行動は、実は私にとって少し心地よかったりもした。
二人の生活が始まる予感は、少し背中がくすぐったいような気がして自然に笑みがこぼれた。
ダンボールは空っぽになって、キレイに折りたたまれてゴミ捨て場へと運ばれていった。
私の部屋にはたくさんの彼の生活であふれていた。
「さて」と私は立ち上がる。
二人の新しい生活のスタートを祝うため、私達は近くの小さなレストランを予約していた。
メイクを整えるために鏡に向かう私。
ふと妙なものに気づく。
見覚えのない櫛。
買った覚えがない
おんなものの
櫛。
「ああ、それあんまり使ってないからもったいないと思って」
振り返ると彼がにっこり笑って立っている。
あんまり使ってないから。
あんまり使ってないのは誰が?
彼の荷物と一緒に私の部屋にしのびこんできた誰かの使っていた櫛。
誰かと彼の生活を思い浮かべる。
でも私には何も言えない。
今日も私の胃には鉛の塊が沈んでいる。
<<処女作です。ブログ開設したばかりで断片小説はこれしかありませんが、今後増やしてい こうと思っています。よろしくお願いします>>
「っ…!」
雨が容赦なく体力を奪う。傷口から血が止まらない。意識が霞む。
(気を失うな…!)唇を噛み締めて、意識を掠おうとする痛みに堪える。だが無情にも変異した右腕が軋む。「く、あぁっ!」耐 え切れず漏れた悲鳴。足すらも震えだし濡れた路面に倒れ込む。全身に痛みが食らい付く。堪えられない。押さえ込めない激痛に彼女 は為す術がなかった。声すらあげられずにのたうちまわる。痛みを伴って『侵食』が進む。
「ぐっ…」身体の中の太い管が右肩から首筋へとゆっくりはい上がる。引き攣れる皮膚。焼け付くような熱さで正常だった細胞が 腐っていく。このまま脳まで『侵食』が進めばどうなってしまうのだろうか。
ふとした疑問の答えはすぐにでる。
今まで自分が斬りふせてきたモノ達と変わらぬ末路を辿るのだ。
今まで自分が仲間と称してきた者達を手に掛けて。それだけはなんとしてでも避けねばならない。奥歯を噛み締めて、煙る思考回 路をフル稼動させる。いい案など出てくるはずもなかった。だが、最悪のパターンを回避出来るかもしれない仮定は生まれた。
『侵食』が完全になる前に自分が死ねばいいのだ。
しかしそれでも中の化物まで共に死なない可能性がある。
それでも。
それでも、少しでも希望があるのなら。
「う…」
暴れまくる痛覚を無視し建物の壁に背を預ける。腰の後ろのホルスターから拳銃を引き抜く。安全装置を外す。口に加えてスライ ドさせ弾を装填する。後は米神に押さえ付けて引き金を引くだけ。たったそれだけで全部終わる。
そう考えると、淋しくなった。
不意にいつかのクロードの言葉が思い出される。
〈他人の命を救おうとしているお前がなんで自分の事を粗末に扱うんだよ!?〉
あの時自分は何て答えたのだろうか。鼻で笑ってあしらっただけだったか。正直、素直に感情を表せる彼が少し羨ましかった。真 っ直ぐで。ひたむきで、自由で。
あんな風に生きられたら、よかったのに
押し当てた銃に温度はなかった。首筋が疼く。それも目を閉じればもう終わり。
「さよなら」
左手の人差し指で引き金を引いた。
「させない」
左手が押さえつけられた。
2008年05月17日 23:48 by パイン飴
新宿駅の案内板の前にたった二人の女は、恐ろしく周囲の人目を引いていた。
一方は秋葉原にでもいそうな、所謂甘ロリと呼ばれるピンクのワンピース。一方は所謂CanCamのモデルのようなお姉系の 女。
どちらも異常なほどの美人というわけでもなく、どちらも何らおかしいわけではない。ただ、この二人が同時にいるというそれ だけで、そこはまるで別世界のように異様だった。
「かつて、新宿駅は立地の悪さから、平日でも利用者0人の日があったそうだ」
お姉系――諏訪部愛美はそういい、タバコを取り出し火をつける。
「それは迷った理由にはならないわ」
ロリータ――入谷はそういい、諏訪部の口からタバコを奪う。
すでに、時間にして30分ロス。
給料日前と言うことで、電車代をケチり普段は使わない路線を使ったのが運の尽き。人混みにもまれ、気がついたら見たことも ない改札に出ていた。
もっとも、同様の理由で迷子のなっていた諏訪部と合流できたのは奇跡としかいいようがない。
2008年05月11日 22:19 by 榊原くじら
「未来から来ました」
「その話を信じるならば、今この瞬間も未来はあるってことなのかな。私に子供はいないし、まだ結婚もしていない。世界では多 分、未来で活躍する人も生まれていないかもしれないけど、それでも未来があるなら、私達は圧倒的に小さな存在だと思う。何が世界 を織り成すなんてわからない。例えば今私の隣にいる子が、まったく悪意ない事故で命を落としたとする。もしかしたら彼の子々孫々 の誰かが、この国の総理大臣になっていたかもしれない。ほんの些細な事故で、未来なんていくらでも変わると思う。『未来から来ま した』って、どの未来から?」
「未来から来ました」
「もしも未来の技術で、時間を遡ることが出来るのならば、今の私達の世界は危うい均衡の上に成り立っていると思う。例えばの 話しで、過去に関わらないように法律が出来てたとする。じゃあ、なんで時間を遡るんだろうね? 時間を遡ることができるのならば 、過去は過去じゃない。現在、過去、未来が同時進行しているんだと考えるべきかな」
「未来から来ました」
「未来から来たってことが本当なら、私が今こうしてあなたと話していることも決められた未来なのかな? タイムマシーンが出 来たのは未来。でも、今こうして話していることは私にとっては現在で、あなたにとっては過去。世界中が動きながら、あなたのいる 未来が築かれたのだとしたら、私が何をしてもそれは決められたことってことなのかな。今、いきなり私が人を殺したとしても、その 人は予め死ぬ運命だった? それとも結果は変わらないで予定調和に収まるの?」
強者の理論は、あまり好きじゃない。
2008年04月15日 19:38 by 望月
砂於――という名を裏切るように、皮肉屋で意地悪な彼は、昨年入学してから一年経つが、真夏以外はいつも学帽とマントを手放さ ない。彼は土佐出身なので、東京は小寒いらしい。寒いと気持ちまで凍えてしまいそうになるから、それが嫌なのだと言う。――まぁ 、判らなくも無い。
そんな彼は、常に偉そうで威風堂々としている上に傍迷惑で自分主義であるから、入学当初から新入生らしからぬその態度に早 速煙たがられていた。それでも他人の迷惑顧みず、常に自分の望むように行動する彼には不思議な魅力があり、慕う者も中々多い。
かくいう俺も、彼を疎ましく思うコトはあっても嫌うとまではいかない。これが砂於の魅力なのだろうか。
砂於はこんな俺のどこが気に入ったのか――そういえば入学当初、俺の「明津(あくつ)」と言う名が「悪」に通じていて愉快 じゃと、そういう理由で何故かちょくちょく話しかけてきて、今ではすっかり気の合う学友となってしまった。
「おう。外のお国の花だそうだ。――何で知ってるんだ?」
「何故とな。答えは明白、わしゃあ天才じゃけぇの。知らぬ事など何もありゃせんわ。――あぁ、良い。そう卑屈になるな。わし が天才なのは神の采配であって、明津のせいじゃ無いけぇの。うむ。天才とは凡人には理解出来ぬ、常に孤独という訳よ」
「……」
俺は砂於の言い分を無視する事にした。
彼は自分をよく「天才」だと言うが、確かに彼は頭も良いし天才なのかもしれないが、どうも母親の腹に大切なモノを忘れたま まこの世に生まれてきてしまった男だと、俺は常々思っている。
「紙を重ねたような花じゃの。茎に棘もあるとはけったいな。気に入らん」
パキリ、と一本勝手に手折られる。鉢ごと抱えている俺の許可無しか。――否まぁ、誰かに許可を得てから何かする砂於なんて 気持ち悪いだけだが。――否しかし。
「相変わらず我が儘だな、お前は。…でも、棘がある花は確かに珍しいよな」
「美しいモノには棘がある、と。――ふむ。そう考えれば女子に通じるモノがあるな。わしは棘より毒のある方が好みじゃが」
「……お前何だそれ。悪趣味だな。棘でも勘弁して欲しいのに、毒だって? どんな女だよ、それは」
「落とし甲斐があるじゃろう?」
「―――――――。」
不敵に笑む砂於に、俺は絶句した。
……そうだ。この男はこういうヤツなのだった。
2008年04月11日 17:08 by 久。
一面の白。一面の雪。遠くのほうに山があるが、降りしきる雪にかき消されるよう。
「おんなじ、だあ」
少女はくるくると回った。
マフラーが風にたなびく。
「わたしの部屋と、おんなじ!」
そうだね、と僕は答えた。
少女の眼が僕を見つめる。
「ここは、まだできてないサイトなんだね」
ううん違うよ、と僕は答えた。
ここはネットの外だって、言っただろう?
「えー?管理者さんはどこにいるの?」
いないよ。この世界は誰のものでもないんだ。
「ふーん」
少女のピクセルが、ぱらぱらと乱れた。
理解しようとしているんだろう。
マフラーがたなびくのをやめた。
物理シミュレーションに支障をきたすほど、彼女は一生懸命考えている。
「じゃあ、なんで白いの?」
それはね、ほら。
僕は手の平に、雪をすくってみせる。
少女は瞳を開き、くいいるように見つめる。
「…きれい」
少女のピクセルが、楽しげにまたたいた。
Copyright(c)1999 FC2, Inc. All Rights Reserved.
@fc2infoさんをフォロー