断片小説
短編小説よりさらに短い、というか、小説の体を成してない。
でも、今思いついたシーンを書きたい、そんなことってあるじゃないですか。
そんなあなたの、日の目を見ない物語の欠片を、チラ、と発表してみませんか?
それが面白そうだったら、ブログの小説の方も読んでみようか、と思われるかも知れませんよ!
2007年09月21日 16:46 by 石瀬醒
「Who killed Cock Robin?」
突然、歌い出すエリカ。
たしか、マザーグースだ。続きは確か――
「I, said the Sparrow?」
続けてそう歌うとエリカは満足げに頷く。
「Yaeh。つまり、どういう事かしら?」
「犯人は最初に名乗っている。丁寧に犯行方法まで語って……」
「正解。さて、それは誰でしょう?」
「……だって……」
凜子は頭を振る。
「あれはお話の中だから?」
エリカの言葉に、そうだ、と、凜子は思う。
あれは仮定、空想、妄想――どんなに言葉を取り繕うとも現実には成らないように出来ている。
「でもそれは、君の所業ではないでしょう?」
「確かに仁尾大師が。でも……」
仁尾典膳の作ったシステムは、彼以外に――場合によっては彼でさえも破れないほど、例外無しに可能性を駆逐する。
唯一それに対抗できるのはシステム自体を裏から操作することだが、そのためにはパスワードが必要なのはもちろんだが、さら にそのシステムの操作方法を知らなくてはいけない。
「仁尾は貴方には伝えなかった。それだけよ」
「仁尾先生が私以外の誰かに……」
それは、考えられなかった。というよりも、考えたくはない。
宮部凜子は、彼の弟子の中でもっとも優秀だった。その彼女を差し押さえて、彼が何かを残す人物はいてはいけない。それは、 彼の最高の弟子、という彼女の看板を傷つけることだ。
「そんなことは、ありません」
凜子は叫ぶ。
だが、その声は消え入るような、悲痛な物。
憐れむようなエリカの表情が痛い。
「今日は、少し休みます……」
ふらりと、おぼつかない足取りで凜子は部屋を出て行く。
「鍵はかけて寝るのよ。でも、殺される時は鍵を開けてね。密室殺人は面倒だから」
「はぁい」
ばたん、とどこか寂しい音をたてて扉が閉まる。
2007年12月08日 00:24 by 榊原くじら
「――ッ、」
異変を感じ取った直後、それを狙っていたかのように瞬時に口元を鉄錆びの臭いがする手甲を嵌めた手で押さえられ、声の無い 声は喉の奥に掠れて消えた。
ヒタ、と冷たいモノが首筋に当てられて思わず息を飲み込み覚悟をした瞬間、背後から男の小さな悲鳴が耳元に響き、首筋に当 てられていたハズのそれは一度宙を舞ってから自分のよく見知った彼の手に危なげ無く納まる。
「――そこまでだ、三流風情が」
ドッ、と鈍い音。冷めた眼で襲撃者を組み敷くと、その背には歳若い忍が一人、今正に己の大切な主の細い喉笛を掻き斬らんと したその男の匕首を逆手に持って乗り上げる。
我が主の、先程刃を当てられた白くたおやかな首とは比べ物にならない襲撃者の太く浅黒い項に鋭い切っ先を押し付けて――
「姫」
呼ばれて、少しだけ身体が強張る。
「……姫。この者の首、今ここで斬り落としても構わないか?」
口調は普段のそれと同じ。仕える主の眼の前で、不埒な暗殺者の首を今すぐ掻き斬りたいのだと冷徹な眼差しで望む彼に、首肯 も否定も出来なかった。
口の利けない姫君と、その姫の護衛として幼い頃から付けられた忍の少年。
ちょこっとだけどブログの方でちまちまと書いてたり。
2007年11月25日 17:19 by 久。
「俺は気づいたら死んでた」
「そう、ご愁傷さま」
黒髪の男の言葉に、少女はそっけなく答えた。
あるビルの灰色の屋上。東京の灰色の景色。灰色のどんよりした曇り空。
そして、目の前に広げられた、鳥のような灰白色の大きな翼。
その翼は、屋上のフェンスの上に立った少女の背中から生えていた。
少女の白い服と風に流れる茶色の長い髪だけが、輝きを放っているように見える。
少女は顔にかかった髪を掻きあげた。美しい、と男は素直に思った。
男はフェンスに背中を預けていた。彼女のように翼は無いので、上に立つのは危ない。
黒のスーツと革靴で、葬式帰りのような格好だ。
「で、生き返ってた」
「そうね、あなたの場合はちょっと大変だった」
人間をコピーして修繕するのは、天使でも骨が折れるそうだ。
「で、なんで俺なんだ?」
「それ、最初の質問と一緒よ」
「ああ、そうだったっけ」
男は頭をくしゃくしゃと掻く。
思い出した、それは2番目の質問。
生き返って最初の質問は「あなたは天使か?」だったっけ。
まるで子供のようなまなざしの俺は、こいつから見たらさぞかしアホっぽかっただろう。
恥ずかしい過去を思い出してしまった。
くく、と男から笑いが漏れる。
「あなたには素質があったの」
「『素質』ねえ」
男はタバコを取り出し、火を付けた。
続きました。実はもう半分あります。この続きはWebで、じゃないブログで。
「では、話していただけますか。8月2日の日の出来事を」
「・・・はい」
白い部屋だ。真っ白な箱を連想させる、窓のない部屋を蛍光灯が薄暗く照らす。
「あの日はとても天気がよかったので、せっかくおばあちゃんの家に来たのだから、と外へ出かけました。散歩のつもりだったん です。でも、行ったことのない道ばかり歩いたので、すぐに迷ってしまいました。そしたら、山の麓まで来てしまって・・・そこでト ンネルを見つけたんです。ライトがついていなくて、中は真っ暗でした。不思議と恐怖はなくて、でも中に入ろうなんて思いませんで した。だけど強い風が吹いて、その時帽子をとばされたんです。その帽子が、」
「トンネルの中へ入ってしまった、と?」
彼女の言葉を先に男が言った。彼女は頷いた。続ける。
「おじいちゃんに買ってもらった新しい帽子だったので取りに行こうと追いかけたんです。思っていた以上に中は真っ暗で、探せ る状態じゃありませんでした。引き返そうと思って踵を返したら、」
一度、言葉を切った。
男と目が合う。
「そこはさっきまで見ていた景色じゃありませんでした。そこは真っ白で、石のような、コンクリートのようなモノでできた四角 い建物ばかり並んでいて・・・。音もありませんでした。その時までは」
「その時までは、と言うと?」
「360度全て真っ白で、訳が分からなくなってその景色の中をさまよったんです。そしたら、誰かの笑い声がきこえてきて、男 か女かは分かりません。でも、子供の声です。それで、人がいるんだと解ったので探したんです。でも、どこにも居ないんですよ。声 はどんどん近づいてくるのに」
何のための黒髪なんだろう。どうせならもっと金色とかにしてくれればいいのに。
楓夏は自分の黒髪を引っ張った。するとプチリと一、二本抜けた。痛みは感じなかった。
「七浦―!」
背後から自分を呼ぶ声が聞こえた。茶色に染めたセミロングを髪を靡かせてやってくるのは同級生の佐久川天だ。後学校まで十メ ートル五十センチ。この距離を一緒に歩くのか。渋々、天に手を振った。
教室に入ると誰もいなかった。女子の着替えが机の上に散乱しているだけでカーテンも綺麗に閉まっていて、校庭からは女子のや る気のない運動の声が聞こえた。
「あ、今日体育だったんだ、一時間目。」
天は鞄を自分の机の上に置くと携帯をいじった。
「着替えないの?」
うーん、と唸るだけでメールを打つ手を遅めない。楓夏は鞄を置くと体操服に着替えた。もう授業開始から二十分たっている。
「私、先行くよ。」
教室を出ようとすると後ろから声が聞こえた。あ、と言う声と共に。
「手、落ちてるよ。」
床には楓夏の手があった。
「あ、ごめんね。」
「ロボットってだるいよねぇ。ちゃーんと付けとかなきゃ。今日鉄棒だよ。」
私は腕をひっつけた。外から笛の声が聞こえる。三十分経過。
なんでもっと速く走れるようにしてくれなかったんだろう。
2007年11月10日 17:13 by チルカ
蛇足の解決編が提示される。
「私が、ある人物が真犯人であると指摘するだけの根拠は、たったひとつだ。光のない、完全な暗闇の中での三重殺。これを単独 犯とするには、非常に苦しい。煌々と光の点った披露宴会場でのことだ。ブレーカーを落とされて、誰もが咄嗟には思うような行動は 取れなかっただろう。暗闇の中での混乱に乗じて犯行を行ったであろう事から考えて、被害者を己の下に誘導する、或いは、何らかの 機械的なトリックを用いる、そんな遣り方は不可能であると検証された。そこできみは、連鎖的な自殺説を採ったのだったね。
しかし私は敢えて、他殺、それも単独犯による直接の犯行を考える。となると、三人を殺害するためには、やはり自らが動かね ばならない。そして、暗闇での自由を得るためには、あらかじめ瞳孔を開いておく他ない。これには単純に、数十秒、目を瞑ったまま でいる、という方法から、薬に頼るものまで幾つかあるが…、点眼薬で瞳孔を開く方法となると、それでは目に受ける光の量が多過ぎ て、犯行前後の行動に制約が大き過ぎるだろう。何より、あの宴会の中で両目、ないし片目を閉じている、という状態は、誰が見ても 不自然で、言い訳の仕様がない。
ただし…、あの会場の中で、ひとりだけ、これらの手段を用いてなお、犯行に支障が出ない人物がいる」
ここで医師は、探偵の反応を伺うように一時、言葉を区切る。
探偵は何も答えない。
医師は、言葉を続ける。
「その人物は、この孤城に足を踏み入れたときから、既に片目を隠していた。眼帯をして、ね。それは彼のアイデンティティを示 すスタンスなのか、ただのファッションなのか、それとも、以前から怪我か病気をしていて、それが今回の訪問の日程にたまたま重な っていたのか。それは私には判断出来ないが、しかし思うね。彼は少なくとも、この孤城での惨劇を繰り広げるための計画の一端とし て、その眼帯を事件が始まるずっと前から、事件が終わりを遂げるまで、出来る限り不自然にならぬ形でつけ続けることと決めていた のだろうと」
医師の最終弁論は終わる。
「さあ、もう、こんなまだるっこしい説明はする必要がないだろう? もうきみには、私が指名したい人物の名が分かっているは ずだ」
探偵の表情が変わらないことを見て取り、彼は、そのまま、
「きみの大切な相棒、助手くんだよ」
断罪の言葉を告げた。
2007年11月07日 19:47 by 祐樹一依
アディスとエレンの二人は
酒場で酒を飲み交わしていた。
「あんた、何杯飲んだのよ」
「ふっふ―ん五杯くらい」
「飲みすぎよ、ほどほどにしないと体壊すわよ」
「はいはーい」
「完璧に酔っ払っているわね」
グラスを置き、エレンは溜息をつく。
アディスは酒に酔うと踊りを踊ることがしばしばだ。
頬を紅くしたアディスはエレンに迫る。
「ねぇ、エレちゃん、オレと一緒に寝ない?」
しかしエレンはアディスの顔面パンチを食らわせた。
アディスは後ろに飛んだ。
「誰がアンタなんかと眠るもんですか!」
「いやーん、エレちゃんきつい」
アディスはへらへらと笑いながら、地面に大の字になって伸びた。
「もう、油断のすきもありゃしない」
エレンはグラスに再び口をつけた。
2007年11月04日 17:11 by ネリム
夜。冬の満月の夜。
男が一人、とある中学校の渡り廊下に立っていた。
窓から入る月明かりが、かろうじて彼の姿を映し出す。
黒のフード付き皮コートのフードを被り、サングラスに銀色のヘッドフォン。下には黒いスーツと黒い革靴。黒の皮手袋。ついで に言えば、コートで見えないがネクタイも黒い。まるで喪服のよう。
そして、彼の右手には黒い、大きく美しい鎌。
彼の眼は、しっかりと目標をとらえていた。
それは制服を着た女子中学生だった。いや、中学生だったものだ。
「違う」
彼は小さく、だが口に出して否定した。
目の前に怯えて座り込んでいる「彼女」は…いや、「あれ」は、ただの「残響(エコー)」にすぎない。
そうだ、現に「あれ」は、空気との境がはっきりしていないではないか。向こうの廊下も、少しだが透けて見える。人間ではない のだ。
彼は鎌を握りしめ、頭上に振りかざした。眼を閉じる。ついそうしてしまう。
力をこめて、振り下ろす。鎌の刃は自動的に、目標に食い込む軌道を描く。
鎌が彼女の咽喉もとを切り裂く瞬間、「彼女」は叫んだ気がした。
彼には聞こえなかった。
いつも彼は、仕事の時に音楽を聴くことにしていたからだ。
彼は眼を開いた。
ピアノソナタ「月光」の調べが、誰も居なくなった廊下を優しく包んでいる。
彼にしか聞こえない音楽。彼にしか聞こえない葬送曲。
夕方、デパートの屋上遊園地。そこに黒スーツの男二人が並んで、ベンチに座っていた。
営業回りを終えたサラリーマンか、それとも葬儀の帰りなのか。
「なあ、お前さ」
赤髪の男が、黒髪の男に話しかけた。
「…なんだ」
「なんかあった?」
黒髪の男はずっと頬杖をついていた。床のタイルの間から生える草を見つめている。
「女子中学生を殺した」
「そりゃ物騒なこって」
赤髪の男は背もたれの後ろに腕を回し、もたれかかった。
やっぱり、この男はこの職業には向いていないかもしれないな。
「ほれ」
赤髪が投げたのは、缶コーヒーだった。黒髪が受け取ると、自分の分を開ける。
「ま、忘れなよ」
夕方、デパートの屋上遊園地。そこに人間は、一人も居なかった。
今思いつきで書きました。続くやら続かないやら。
今日、書いたぶんです。頭は、おかしくないですよ。
「ああ、もれる……。おしっこ、でちゃいました……」
これを回りで見ている人々の間に、笑いの輪が生まれた。見てるのは、ホストクラブの雇われオーナー、急ぐ用事のない他のホスト 、それと如月の帰りを待ちぶせしていた常連客の女たちが五人ほどである。幸い││ノロマにとっては不幸なことに││駐車場は、裏 にあり通行人からは視角になっている。つまり、ここで人が殺されようが、三時間掛けてレイプされ殺されようが、誰にも気付かれな いということである。
ノロマの足下に小便の水たまりが拡がる。最低だった。この男は本当に、いくら、いびってもいびり足りない、と如月は思った。
「幼稚園の餓鬼のようにしょんべん、たらしくさりやがってッ!そんなにしょんべんが好きかッ?お前はしょんべん大好き男なので ちゅかッ?」如月がおどけたように言う。ファンの年齢的には盛りをとうに過ぎている女たちが、如月に気に入られようと、どっと笑 った。
「す…特に好きではありません……」自信なさそうにノロマが答える。恫喝する如月。
「ああんッ?好きじゃありませんだとッ?てめえ、俺をナメとんのかッ?」
「どうしてなめたことになるのか、わかりませんッ!」またもや、泣きそうになるノロマ。
「先輩の言ったことは絶対だッ!」ここで一発、革靴のかかとで、ノロマの顔面にけりを入れる如月。「先輩様がションベンが好き だな、と言ったら、ハイ、もちろんその通りでございますッ!と答えるのが世間の常識っ、つうもんだろッ!コラッ!大学出ッ!イン テリだからと思って、偉そうにすなッ!」罵倒する如月。
「偉そうにしてませんッ!すみません、すみません!おしっこは大好きです」
「本当のことを言うのは簡単。だけど、本音を言うのだけは、すごく、すごく怖い」
本音を言うのは怖い。
彼女は何度もそう言った。
「私が本気になるには、相手も本気じゃないといけないの。私は傷つきたくないから、だから、誰にも本音は話さない。私の周り にいる人は誰も、本気で生きてる人なんていないもの」
梅雨時だというのに雲一つなく晴れ渡った空の下で彼女は言った。
このあたりで一番空に近い場所、学校の屋上に彼女は時間の許す限りいる。
転落防止のフェンスなどない縁を彼女はステップを踏みながら行ったり来たりする。
一歩間違えば落ちてしまうというのに楽しげに。時には風が吹き、彼女の身体を揺らすが彼女は両手をばたばたと動かしバランス を取る。その姿がとても子供っぽかったのでつい笑ってしまった。
「そうやっていつか落ちて死ぬんだ」
「うん、そうだよ」
彼女は僕のことをさほど気にもしていないようだった。
こちらを向くこともなく普段と変わらない口調で言った。
冗談のつもりだったのに彼女があっさりと頷いてしまったので、いつか、本当にそうなってしまうんじゃないかと不安がよぎった 。
「いや、ごめん、冗談だから。死ぬなよ」
「うん、そうだね」
やっぱり彼女はこっちを見なかった。自分の足下しか見ていない。両腕を横にまっすぐ伸ばし、ふらふらとバランスを取りながら 歩いている。
「だからさあ、むかつくの」
彼女はいつも周りにある物や人、会話の流れを無視した言葉を紡ぐ。そんな彼女が理解できず、たいていの人間は彼女と距離を置 く。いや、距離を置かれたからこうなったのかもしれない。
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