三番 葉月 楓
壱
夜が白み始めるころ、セラは村の丘にいた
「あ〜。なんか気持ち悪い・・・・」
するといきなり隣にエリックが現れた
「全く・・・・二日酔いの餓鬼の戯言か?」
エリックはセラにそう言ってどこかに消えた
きっとあれも魔法。それも上級魔法。それを詠唱なしにやってのけるなんて・・・・
私も魔法を記憶しないと・・・・
魔法は一日に使いたいだけの魔法を魔法書で記憶しなきゃいけない
それも毎朝。宵の明星が上がったころに
とりあえず火の魔法。後回復の水も一応記憶しなきゃ・・・・
すると長老が後ろに現れた
「長老様!」
「ふぉっふぉっ。そう硬くなる必要はなかろう。御主にこれを渡しに来たのだ」
それは魔法書だった
中を見ると知らない魔法がいっぱい書いてある
「これは?」
「これはのう。昔から外に出る魔法使いに渡してきた者だ。危険になればきっと読める魔法がいくつかあるじゃろう。それが御主 達二人の成長の鍵ともなろう。さぁ、そろそろ時間だ。行って来なさい」
気付くとまたエリックがセラの隣にいた
「長老。それ、俺の分もちゃんと在るよな。」
「あぁ。後御主にはこれも。じゃな。あれが出そうになったらそれで押さえ込め。それでも出るなら・・・・」
「出させねぇよ。おじいちゃん。それじゃ行って来る。掴まれ、セラ」
エリックに掴まると周りの景色が揺らいだ
魔法が始まったのだ。
参
この杯の中身は古の時よりこの地を治めている竜の血だとか。セラには到底信じられないことだが、この光を見ている限りでは あながち嘘ではないのかもしれない。
その様子をやぐらの下から見ていた長老が、面白そうに眉を上げた。そして、口を開く。
「……そろそろかの。セラ、エリック。飲み干すが良い」
「えっ!?これ飲むの?」
セラがその素っ頓狂な要求に声を裏返らせた。太古の人々は、これを飲んで長寿を得たと言うが、この黒く濁って腐敗臭のする 液体を飲む気にはなれない。
しかし、躊躇うセラを尻目に、エリックはごくりと杯の中身を飲み干した。彼はそのまま杯を卓袱台に置くと、からかうように 目元を歪めてセラを凝視してきた。
「……やってやるわよ」
セラはそんなエリックの挑発に敢えて乗り、杯を手にとると目を閉じて一気にその中身を口に流し込んだ。泥水を飲んでいるよ うな酷い舌触りだったが、重力に任せるようにして全て口の奥に流し込んだ。
「よくやったぞ。セラ。エリック。これで準備は完了じゃ。あとは明日の出発まで体を休めるが良いぞ」
長老は満足げに頷いてそう言った。セラはそういわれなくともそうする気だった。この口の中の状態だと、明日の朝まで口の中 に物を入れることは無理そうである。
弐
「え?私の夢?」
エリックはほんの少し顔を和ませてセラの方を向いた。
目に少しかかるくらいの硬質な前髪に少し隠れた濃い碧の瞳は、戦慄を覚えるほどその顔に似合っている。真正面から凝視され ると、意識せずとも視線が明後日の方を向いてしまう。
「と、特に決まってない……かな?」
「そうか。ならいい」
セラがそう言うと、エリックは驚くほどそっけなくそう言い返すと、また儀式の準備に取り掛かる村人たちの方に向き直った。
(……噂どおり変な人)
金色に光る月が真上に見える。真夜中である。
これから儀式が催されようとしている。儀の主役はもちろん、旅立つセラ達である。
広場の中央を大きく陣取るやぐらに載せられ、その上で二人は向き合っている。セラの視線の先にあるエリックの表情は、戦慄 を覚えてしまうほどこの儀式に対しての関心が無いように見える。いつもの仏頂面である。
二人の間には、小さな卓袱台が置かれている。そこに置いてあるのは、二つの杯。
儀式が始まった。儀式というよりは、祭りに近いような気がする。
竹で作られた蝋燭の壁の外で、村人達が思い思いに馳走を食べ、顔を赤くして会話を楽しんでいる。
セラ達は食べることはおろか、そんな会話をさせることさえもさせてもらえない。ただ、暇そうにそんな村人たちの様子を見て いるだけである。不機嫌になっているのはセラだけらしく、エリックは宙一点を凝視したまま顔を微塵も動かさない。本当に変わり者 だ。
やがて、儀式は佳境を迎える。セラにはそれまでの時間がとてつもなく長く感じた。
金色の月の真下、二人は杯を交わす。金色の光にあてられた杯の中身は神々しく内側から光った。
二番、霞弐屍兎
壱
旅たちの儀式は村の中央に位置する、円形状の広場で行われる。
何週間も前から組み立て、準備されたやぐらがその中央に置かれて、周囲には竹を縦に真っ二つに切ったものをそのやぐらを囲 むように、円形に置かれている。そしてその竹の上には蝋燭が載せられており、幻想的にメインであるやぐらを照らしている。
村人が盛んに儀式の準備をしているのを、セラは両手で頬杖をついて、眺めていた。
嬉しいはずなのに、この陰鬱な気分が拭いきれない。
理由は明確である。今隣で仏頂面をしているエリックだ。
確かに彼は魔術の技術は目を瞠るものをもっている。あの蝋燭の火をつけたのも彼だ。
物を燃焼させる魔法は基本中の基本であるが、誰でも簡単に、という訳にはいかない。大体の人は成人──十六歳辺りにようや く取得することができる。ただ、取得するといっても、蝋燭の火をつけるくらいが精一杯である。この範囲が広がり、更に火をつける 対象が多ければ多いほど高い技術力を求められるのだ。常人でこの規模の蝋燭の火を一括でつけるほどの技術を身に付けたときには、 長老と呼ばれてもおかしくない年齢に達しているだろう。
しかし、セラと同い年の彼はいとも簡単にやってのけてしまった。
セラが抱いているのは、この少年に対する劣等感。嫉妬、というよりは敗北感である、それがこの形容しがたい憂鬱の根本的原 因である。
このまま一緒に旅に出て、足を引っ張ったりしないか、見下されたりしないか。
そんな不安がセラの心をループしている。
「──炎は子供だ」
「え?」
ふいにエリックがそんなことを言った。
「どういう因果か知らないけどな、炎が嫌悪感を持っているものは燃えないらしい。木とか蝋燭とかは簡単に燃えるけど、岩とか は燃やせない」
セラは呟くように言うエリックの横顔を見た。先ほどからその仏頂面は緩和されていない。セラに言っているというよりは、独 り言に近いようだ。
「俺の夢はそんな燃えない奴らと炎の仲たがいを解消することだ。そこまで行ければきっと俺達はまた一歩進める」
「……へぇ」
言ってることがよく分からないが、察するに岩とか金属といった燃えない物質を燃やすことが彼の夢らしい。セラには到底想像 できない。エリックが考えてることも、だ。
「お前の夢は何だ」
一番・螢羅琴音
壱
暗い森の奥深く・・・・・
そこには魔法の民の村があった。
人といっさい関わらず、自然とともに生きてゆく人々。
――彼らは、確かに幸せだった。
「セラ!どこにいくの?」
セラは今年、十六歳になる魔女見習い。
どこにでもいるような明るい娘だ。
しかし、その腕は同年代の娘に比べ、はるかに卓越した物を持っていた。
「お母さん・・・。明日の事で長老から呼び出されてるの。」
「そう。気をつけていってらっしゃい。」
「はい!」
長老の家まではかなり遠い。
だが、セラの足取りは軽かった。
なぜなら、明日あるのは旅立ちの儀。
百年に一度、その年で最も優秀な魔法使いが二人、村を出て人の世界の調査をするのだ。
なんとセラは、そのうちの一人に選ばれていた。
「長老!セラです。」
セラは元気よく長老の家に入ると、そこには長老と、一人の少年が立っていた。
「おお、セラ。待っていたぞ。」
セラは入るなり、彼に尋ねた。
「長老・・・・なんでエリックがここに・・・?」
「ほっほっほ。そんなこときまっとる。お前と一緒に旅に出るからじゃろう?」
セラのテンションは、一気に下がっていった。
エリックといえば、村中の誰もが知っている変わり者。
ほとんど彼は口をきかず、怖い噂も流れていた。
「いやかの?」
「え・・・・いや、そんな事無いです!頑張ろうね、エリック!」
「・・・・ああ。」
先が不安なセラだった。
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